その白を染めて

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暫し時の止まっていたあたしに、 『おい、聞いてんの?』 やや不機嫌な木村くんの声が受話器越しに聞こえてきて「ご、ごめんっ、聞こえてるよ。どうかした?…あ、もしかして急な出張が決まっちゃったとか?」 慌てて思いついた事柄を述べる。 『いや、仕事のことってか、昨日のことなんだけど。』 「っ、!?な、今なんて…!?」 『…とりあえずさ、話あるから今日の帰り会社前のカフェで待ってて。朝みたいに逃げたら許さねえから。』 なかなかの圧で言い切った木村くんは、じゃ。とその後すぐに通話を切ってしまった。 まさかこんな風に内線を使われるなんて思ってもいなかったあたしは、自分の身に起きた漫画やドラマで見たようなオフィスラブな展開に、ドキドキと胸を高鳴らせていたのだけれど、 いや、でもこれはそんな甘酸っぱいウキウキするような内容じゃないはずだ。 と、思考がすぐに切り替わる。 木村くんの声色からもその不機嫌さは感じ取れていたので、あたしはどんな不始末をしでかしてしまったのかと、就業時刻になるまでそれはもう気が気じゃなかった。 これはあれかな、正式にフラれるか、他言しないよう釘を刺されるかのどちらかかもしれないと、ネガティブ思考一直線のあたしは、できるだけダメージが少ないように大方の予想をつけて、心への負担を和らげようとしていた。
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