その白を染めて

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おまけに、はいっと、落ちたシャーペンをあたしに差し出しながら「今こうやってシャーペンが落ちたってことは、きっとあなたは受かりますね。」 と、よく分からないこと言う。 「え?ど、どうしてですか…?」 「このシャーペン、あなたの代わりに落ちてくれたんでしょ?だからきっと受かりますよ。お互い頑張りましょう。」 そう言って自分の席へと向かっていってしまった。 顔も確かにイケメンだったけど、あたしが恋に落ちたのはそんな素敵な言葉を瞬時に紡ぐことができる、木村くんの考え方にだった。 その後、見事内定を勝ち取ったあたしは再会出来るかも分からない木村くんへの思いを募らせていった。 そして、入社式の日、その姿を目にしたときから現在まで、あたしの恋心はとどまることを知らず、なおも加速している。 「は?シャーペン?」 そんなあたしの言葉に、木村くんが訳がわからないといった声を上げる。 「うん、シャーペン。小さなことがきっかけで、どんどん好きなところが増えていくの。喋る時の声が好きとか、つまらなそうにしてる表情がいいなぁ。とか、笑う時にできる右側のえくぼがかわいいな、とか。本当、人からしたらそんな所?ってと思うところも全部、魔法にかかったみたいに輝いて見える。」 お酒の力も相まって、にやけながら口にしていく言葉はどれも木村くんの好きなところ。 うん、やっぱり、すごい好き。
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