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手紙
「また壊れた…。」
七瀬は朝の忙しい時間、コーヒーメーかーにイラつかせながら答えてくれるわけでもない、性能が単純な機械に文句を言っている。
買い替える余裕さえあれば、平穏に暮らせるのかと心の中で思い、一人ばたばたと朝の支度を始めていた。
食事を省いたら時間に余裕ができるのか、ダイエットにもなるし一石二鳥じゃないかと思ってもお腹は空く、絶対昼まで持たないし、頭も回らない。
エジソンの閃きとやら、世界の大発見でもしたつもりかなのか、あっというまにそれは却下された。
身支度をして、足早に玄関の外へと出ていく。
日差しがきつい。起きたばかりの朝には身体が応える。
初夏の日だというのにこんなにも暑く、気だるさを誘う日差しは、温暖化のせいなのか、それとも仕事に行かなければならないという身体の拒否反応で起こるせいなのか、どっちにせよ
行かなければならない使命感に奮い立たせながら今日の一日をスタートさせる。
「はい、これ差し入れ。」
職場の近くにあるスターバックスのコーヒーをデスクの脇に置いてきた瑠夏。
入社一年目にしてすでに上司との関係は上手くやりこなし、仕事の覚えも早かった。
気づかいが完璧である瑠夏に気にならないやつなんているのだろうか?
太陽のように明るく照らす瑠夏が居るから、
毎日嫌な会社でも来れるようなもんだからな。
「今日、仕事終わり空いてますか?先輩。」
そう質問された瑠夏に、急に何の事だと頭の中を駆け巡り、とっさに空いてるよ!と頭の中の思考とは違う言葉が反射的に出てしまった。
「実は相談したいことがありまして。」
何の相談?仕事の事か、プライベートの事なのか、それとも自分に好意を持ってるという相談なのか?
いずれにせよ、自分に頼ってくれるというのはまんざら、嫌な気はしない。
瑠夏に、好意があるという気持ちを認めてしまった方が楽だという事も分かっている。
定時の時間となり残業もなく、いつもなら、まっすぐ駅に向かうのだが、瑠夏との約束を近くのファミレスですることにした。
「何?相談って?」
「実は会社辞めようかと迷ってまして。」
「何で仕事に問題でもあった?」
「それが、嫌がらせの手紙が私のデスクに何通も入ってるんです。」
「どんな手紙?」
そこには、ブス!死ね
思い上がってるんじゃねー
など、殴り書きで書かれた手紙が何枚も机の上に広げられていた。
思い当たる人いてるの?聞いてみたけど、全く検討がつかないという。
上司には相談してみた?と尋ねたら
あまり事を大きくしたくないので、話しが出来ないそうだ。
「毎日一枚ずつ、机の引き出しに入ってるんです。昨日とは違う言葉で、たまに似たような悪口にもなったりしてますけど、結構メンタルにくるっていうか、じわじわ攻撃されてる感じで、精神的にきついんです。」
あんなに明るく振る舞っているのも、無理して作っていたのかと、瑠夏を健気に思う自分がいた。
もう少し様子を見てみよ。社内で何かおかしな動きをしている奴はいないか、自分も気にして見ておくよ!
と伝えてコーヒーをおかわりする事もなくその店を出た。
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