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――あれ、俺、今どっち入れた?
大樹は、それぞれの手にある塩と砂糖の小瓶を見つめ、困惑した。
今日は、帰りの遅い彼女に代わり、大樹が夕食を作る事になっていた。料理などほとんどしない大樹が選んだメニューは、冷蔵庫にある野菜の適当炒めだった。野菜を適当に切って、適当に炒めて、適当に味付けするだけ。楽勝だろう、そう意気揚々とキッチンに立った大樹だったが、味付けの工程の時、判明してしまったのだ――。
全ての黒幕たる犯人が!
大樹は、その瞬間、驚嘆の声を上げ、ドラマを流しているスマホにかじりついた。そうしてそのまま、横目ですくった白い調味料を、フライパンへ振りかけたのだった。
――こりゃ、また怒られるなぁ。
大樹は頭を抱えた。以前にも同じようにやらかした事があった。その時は、激甘料理を作ってしまい、食材を無駄にして! と彼女にこっぴどく怒られることとなった。
数時間後くらうであろう説教の事を考え、項垂れる大樹だったが、いやまて、と頭をあげた。打開策がひらめいたのだ。
――前回怒られたのは、味見もせず料理を食卓に出してしまったからだ。だから俺も事前に気が付けず、怒られるハメになった。ならば話は簡単だ。味見をすればいいじゃないか。ちゃんと塩が入っているなら、万事解決だ。もし、砂糖が入ってしまっていれば、証拠隠滅のために今作っているものは食べてしまおう。そして、新たに作り直してしまえばいいんだ。
良案の至った大樹は、さっそく箸でフライパンの中のキャベツを一欠片つまむと、おそるおそる口へと運び、噛みしめた。
瞬間、大樹は箸をキッチンに叩きつける。
――や、やった!! しょっぱい!!
これで、彼女に怒られることも、余計に腹を膨らませる事もなくなった。一件落着。諸事万端。
大樹は、心地いい脱力感に襲われ、丸椅子に腰を預けた。それから、料理の支度が終わってから、優雅に飲もうと淹れていたコーヒーに手を伸ばす。大業を成し遂げた後の様な解放感に包まれながら、コーヒーを口に含んだ。
しかし、瞬間、予想だにしなかった刺激が口の中を刺した。
「しょっぱ!!」
大樹は思わず飛び上がり、コーヒーを吹き出した。
よそ見していたのは料理の時だけではなかったのだ。
そして、大樹より拡散されたコーヒーは、スコールの如く降り注ぎ、フライパンの中を濡らすのだった。
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