再会

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再会

 大学の学食は二箇所ある。だが、学生に対して席数が少ないのかいつでも大混雑だった。都心にある校舎はやたらと洒落ているが、食堂に関して言えば改良の余地があるといえる。  四人用のテーブルに眞子と礼が並び、向かいに和希が座っていた。眞子は綺麗な顔でスタミナ丼を食べ、礼は常にいかに可愛くスタイリッシュさを見せるかがテーマなので、学食のメニューではなくコンビニの新作パニーニを啄んでいた。 「カズちゃん」  学食のトレーを抱えて和希の名を呼んだのは、先日居酒屋で会話を交わした優男だった。食堂は人々の熱気にエアコンが負けて少々蒸していたが、優男は爽やかな顔でにこやかに登場した。 「ああ、あの時の」  カツカレーを食べていた手を止め応えた和希だったが、首を捻る。 「名前、言ったっけ?」  この疑問に「カズは有名だからみんな知ってるよ。前から言ってるじゃん」と答えたのは礼だった。  優男が辺りを見渡して遠くに居るアイドル顔の男に手を挙げて合図し、その後直ぐに横の人に空いているイスを借りていいかと交渉した。イスは四人用テーブルに追加されて、みんなで詰めてスペースを作る。  そうしてやってきた男が無事に席に着き「どうも」と挨拶をした。 「ちゃんと」  母親のような言い方で優男に促され「ごめんな、この前俺が絡んだらしくて」と、居酒屋の時より浮腫がとれてスッキリした顔で言い直してみせた。  話についてこれない礼が全員の顔を見渡した。と言っても、礼は優男のことも童顔のヒロと呼ばれていた男の顔もしっかり見ることが出来ない。礼はイケメンが好きで、それでいてやたらとイケメンに臆する性格だった。 「なに? なんの話?」  眞子が口の中のスタミナ丼を飲み込んで答えた。 「この前、カズと二人で飲んでたらこの二人がたまたま隣の席に来てね。で、こちらが酔っ払いでさ」  指摘された童顔は生姜焼き定食の味噌汁椀を持ち上げてバツが悪そうに「マジですまん。なんも覚えてないんだよな」ともう一度謝る。  そこで礼が「ずるーい」と口を尖らせた。礼のずるいはいつものことだ。眞子も和希も美形でズルいし、眞子は彼氏がいてズルいし、とにかく僻むとズルいと拗ねる。そんなことには慣れっこな和希と眞子なので礼のご機嫌をとるようなこともしない。 「礼は絡まれたかったの?」  カレーを口に運びながら和希が言う。そうじゃないと礼がゴニョゴニョと返すが、そこはもう流しておくところだった。 「ええっと、お互い名前とか知らないままだったよね。俺は千歳(チトセ)、こっちは裕貴(ヒロキ)。国際経済学部」  優男は千歳と名乗り、持ち前のコミュニケーション能力を遺憾無く発揮し礼を黙らせた。にこやかに全員を見回し、視線だけで和希たちの自己紹介を促した。 「私は和希。こっちは眞子。で、この前居なかったこの子は礼。文学部」  三人分、和希が紹介したところで礼が声を挙げる。 「私、二人のこと知ってたよ」  これに眞子が「そうなの?」と反応していたが、和希からしたら驚きは一つもなかった。礼はイケメンのことになるとやたらとセンサーが作動するのだ。眞子はひとの容姿に無頓着なところがある。だから、礼の言葉に驚きながらも納得しているようだった。顔は良いと思っていたが、なるほど礼が騒ぐほどの良さなのかといった具合に。和希も眞子ほどではないが、イケメンの基準がよくわからないタイプだ。それでも二人がかなり整った部類であることは気がついていた。  千歳はニコニコしながら「意外だね」と焼き魚定食を突いていた。なかなか所作の美しいところがあり、魚の皮や骨も見事に分けて食べている。  和希の隣に座った裕貴が箸で和希のカツを差す。 「カツ一個頂戴。俺のおかずとトレードしよ」  自分の皿にある切り分けられたカツを見下ろして「一個と言わず全部いいよ。学食の量バグってて食べきれないんだよ」と、裕貴のおかずは断った。裕貴は嬉々としてカツを摘まむとそのまま口へ運んでいく。モグモグと咀嚼している姿は気持ちがいい食べっぷりだった。 「小食なんだな。これ悪いけど食って」  生姜焼き定食についていた冷ややっこを和希のトレーに乗せた。カツより重くないので和希もそれを受け入れて頷いた。 「こう見えても女だからね。学食の量って男の人に寄せてるからさ、何頼んでも多いんだよ」 「こう見えてもなにも、女じゃん」  このぶっきらぼうではあるが何の遜色もない言葉が和希の心に真っすぐ届くなど裕貴は思ってもいないだろう。気遣いからの言葉なんてかえってみじめになる。裕貴は本当に和希を女として見ている。ただそれだけで和希には嬉しかった。  じゃあもらうと和希のカツを千歳の皿の上に置くのも、遠慮がなくて好きだった。和希の言葉をそのまま受け入れる姿勢がいい。それでも困ったようにカツをとって和希に「いいの?」と確認する千歳も何となく千歳の人間性が垣間見えた気がして、和希は頷いた。 「今度さ、皆で飲みに行かない?」  カツを取り上げながら千歳が皆を見渡した。 「この前のお詫びもあるし、せっかくだから仲良くなりたいし。あ、別に飲みじゃなくてもいいよ? カラオケでもいいし」
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