再会

2/2
前へ
/4ページ
次へ
「行きたい!」  飛びついた礼とは対照的に和希は至って冷静に「カラオケは別にいらないかな。話聞こえないし」と返した。それに眞子も同調して「お酒を飲む方が私も好き」と答えた。 「それで愛について語るんでしょ?」  可笑しそうに眞子に問う和希に、眞子は真面目にそうだと返していた。これに不満な礼は一人不機嫌になって、しかしイケメン二人の手前大きく出られず小声で眞子を非難する。 「ほんといつも愛についてばっかり。どうせ答えなんて出ないのに」  和希がこれに対して思わず笑ったのを千歳がニッコリと指摘した。 「カズちゃんって笑うと可愛いね。格好良さより可愛さが勝つ感じ」  生姜焼きを頬張っていた裕貴が「出たよ」とこれに茶々を入れた。 「天然なんだよ、千歳は。これで本人口説いてないつもりだからね。マジで怖いでしょ」 「え、口説いてるように聞こえないでしょ。ただ素直に褒めただけだし」 「それな。勝手に落ちるほうが悪いってやつ」  納得いかないのか千歳が口元を隠して明後日のほうを見上げた。 「そんなこと言われてもなぁ」  一方的にいじめられた千歳が気の毒になって「でも嬉しかった」と和希が言うと、それに乗じて礼も「そうだよね!」と千歳のフォローに回った。  眞子はスマホを出して、亀裂だらけの画面を恥ずかしがることもなく「じゃ、連絡先交換しとく?」と我が道を行く。眞子は自分の世界があり過ぎて、時として空気や流れを全く読まないことがある。とは言っても、逆にドキリとするほど常識人だったり核心を突いてきたりするから人として面白い。 「俺のことは千歳経由で誘って」  箸をパタパタ開いたり閉じたりしながら裕貴が答え、千歳が「それがいいね。ヒロって基本反応鈍いから」自分のスマホを出した。和希は特に意味はないが裕貴と同じ用に眞子から連絡を貰えばいいと思って動かなかった。けれど、礼はワクワクした顔つきでスマホを出して連絡先を交換しようとしていた。  こういうのを見ると、千歳や裕貴は相当なイケメンなのだと和希は認識した。礼は本当に分かりやすくて、重宝する。眞子も和希も異性の顔立ちについてそれほど重きを置いていない。それを礼に言うと「自分たちが整ってるから、もうそこにはこだわらないんだ」と嫌そうに返されるから口にはしないようにしていた。顔が良いより波長が合うかどうかの方が大事だと思うと言っても理解されないから、ここはもう礼とは分かり合えないラインなのだ。要するに話しても無駄というやつだった。  残ったカレーを何とか食べきった和希が、同じく生姜焼き定食を食べ終えた裕貴を盗み見た。  裕貴とはなんとなく波長が合うような気がする。これは和希の一方的な考えだけど、そんなふうに感じていた。いや、きっと裕貴の第一印象が良かったからそう思いたいだけなのかもしれない。和希は大学入学当時に裕貴と会ったことがあった。この様子だと裕貴は覚えてなさそうだが、そこは居酒屋で直ぐに気が付かなかった和希なのでお互い様だ。それに、ただ和希にとっては忘れがたい出来事だったというだけで裕貴には記憶にも残らないことだったのだろう。  和希と裕貴の目が合って、裕貴がすかさず口角を上げた。 「カツありがとな。今、程良い満腹感」 「食べてもらって助かった」  裕貴が和希のことを覚えてなくてもいい。こうやって接点が出来たのは喜ばしいことだ。千歳ではないけれど、和希も裕貴には笑顔がいいと言いたかった。ずっと見ていたいような晴れ晴れとした笑顔なのだから。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加