第二話 赤い石

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第二話 赤い石

「お母さん、これ、なあに」  健人は母親を見上げ、彼女の胸に光る赤い石を指差した。 「これはね、お母さんの宝物よ。あなたが生まれるずっと前にお父さんにプレゼントしてもらったの。この石のおかげで健人がここにいると言ってもいいわ」 「お母さんは赤い石が好きなの?」 「そうねー、お母さんの誕生石が赤い石だからね」 「そうか、じゃあ僕もお母さんに赤い石をプレゼントするよ」 「健人もお母さんに赤い石をプレゼントしてくれるの。そうしたら、お母さんはすごく嬉しいわ」 「ほんと。お父さんの石より大切にしてくれるの?」 「うーん、そうねえ、どちらも大切だから、同じくらいに大切にするわ」  健人はそれから毎日、家の近くの川原に行き、赤い石を探した。  しかし、川原に転がる石は灰色や白色、黒色の石ばかりで赤い石はなかなか見つからなかった。  健人は夏休みが始まってから毎日のように川原に通い、夏休みの終わる頃になってやっと赤く光る石を見つけた。 「みつけたー」  健人は夕陽に照らされた川原で赤い石を拾い上げ、一人声をあげた。  父親の赤い石より断然に大きいことが嬉しかった。健人の小さな手になんとか収まるくらいの大きさだ。  それから赤い石をハンカチに包み、それを右手で握りしめ、川原から一目散に家まで走った。  家についてすぐにキッチンにいる母親の前に立った。 「お母さん」  息を切らしながら健人は母親を見上げた。 「健人、どうしたの。汗でびっしょりよ」  母親が屈んで健人の額の汗を拭いた。 「お母さん、これ」  健人は母親の目の前に右手を出してハンカチを広げた。  母親は健人の右手のひらに視線を落とした。 「これ、どうしたの」  母親は健人の顔を覗きこんだ。 「川原で見つけたんだ。お母さん、赤い石が好きだから」 「お母さんのために探してくれたの」 「うん」 「すごく嬉しいわ」  母親は健人を抱きしめた。  健人は母親の胸に顔を埋めた。その時、母親の胸にある赤い石が目に入った。  健人は自分の見つけた赤い石と頭のなかで比べてみた。  健人の持って帰った石は、川原で見た時は赤くきれいに光ってると思ったが、母親の胸に輝く赤い石を見ると、輝きは全く比べものにならない。 「でも、父さんのに比べたら全然きれいじゃない」  健人は母親の胸のなかで呟いた。 「健人がくれたこの石もすごくきれいよ。ありがとう。大切にするわ」  母親が健人の頭を撫でた。 「でも、父さんの石の方がいいよね。赤く輝いてきれいだもん」  健人は口を尖らせた。 「そんなことないわ。健人がお母さんのために見つけてくれた石だから、母さんはこっちの方がいいわ」 「ううん、僕、もっときれいな石を探してくるよ」  健人は川原に戻ろうとした。 「そんなことしなくていいわよ。これで充分よ」  母親が健人の肩を掴んだ。 「でも、その石はきれいじゃない」 「そんなことないわ。この石もすごくきれいよ。それに、この石には健人の愛情がいっぱい詰まってるわ」 「僕はもっときれいな石の方がいいよ」 「じゃあ、お母さんが今日からこの石を毎日健人のことを思いながら磨くわ」 「お母さんが磨くの」 「そうよ、そうしたらこの石は、健人の心みたいにきっとピカピカになるわ」 「この石がお父さんのよりピカピカになったら嬉しい」 「そうね、お母さんも嬉しいわ。これから毎日健人の幸せを願いながら磨くわね。この赤い石は、母さんと健人の二人だけの宝物よ」 「わかった。お母さん、絶対にピカピカにしてね」 「約束するわ」  母親が右手の小指を健人の前に出した。健人も右手小指を出して母子で指切りをした。
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