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「瀬尾さん……これは複製画です」
落胆のため息を落とす私を、彼は呆然と見詰める。
「何言ってんだ……これは間違いなく……」
「見てください、この筆を。М画伯の手にしては稚拙過ぎる」
「それは若い日の作品だからであって……」
彼は酷く動揺している。
私に真贋の見分けがつかないなどあり得ないと思っていたのだろう。
そう、これは間違いなく真作だ。
だが私はこれを真作とは認めない。
理由はただ一つ。
「瀬尾さん、貴方にお訊ねします。どちらが純粋に美しいと思いましたか? 貴方の持つこれと、S美術館にあるあの絵と」
全く瓜二つの作品ではあったが、ほんの僅かな手の違いに、宿る美が異なる。
円熟した手が持つ輝きの前で、若さ故の稚拙さはどうしても劣る。
瀬尾の目にもそれは明確だったのだろう。
彼はほんの少し言い淀んだ。
「……それは……」
「つまり、それが答えです」
『パリの夕景』を突き詰めた我々にしか、恐らくその違いは理解出来ない。
3年間これだけを見詰め、複製画を作った瀬尾。
その複製画を真作であると信じ、20年以上愛し続けた私。
そこまで突き詰めたからこそ、この違いは明らかなのだ。
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