肩書きと真贋

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「プロの方の目から見て、瀬尾さんの持ち込んだ絵は……どうでしょう。価値のあるものなんですか」 「ご質問の意図がわかりませんが、よく出来たですので数十万であればお引き取りすると申し上げました」 少し首を傾げてから、年嵩の刑事が訊ねる。 「私達ゃ美術品は全くの門外漢でして。つまりあの絵は贋作……ニセモノって事ですか?」 「真作ではありませんが、贋作でもありません。恐らく貴方がたの言うニセモノには違いありませんが」 彼らは益々訳がわからないといった様子で訝しげに私を見る。 もう少し噛み砕いた説明が必要らしい。 「瀬尾さんは複製、つまり真作を元に当時の所有者に頼まれてそっくりに作ったと仰っていました。しかし贋作ではない。つまり本物と偽るつもりはなく、あくまでも複製したものだと明言されてました。前の所有者の方からの複製画としての著作権譲渡契約書もお持ちでしたし、何よりそれの真作は国立S美術館に所蔵されておりますから」 国立の美術館という肩書きに彼らは納得したようだ。 権威ある美術館で、真作の墨付きがあるのだから当たり前だろう。 ほうと感心したような声を上げ、若い方が小さく手を挙げる。 「瀬尾さんは相当金に困っていたようですが、何故あの絵を売らなかったんでしょう」
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