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「カンバス自体は元々、当時のものが残っていたんだ。贈られた祖母さんがМの思い出として残してた。あのデッサンもその中の一つで、Мの描きかけのを俺が写真を元に仕上げた。絵の具もある程度は残っていたが、足りない分は……あんたにはわかるだろ」
私の脳裏にあまりにも有名な一人の贋作者の名前が浮かぶ。
「ハン・ファン・メーヘレン……」
フェルメールの贋作を何点も作った彼は、その年代の油絵から剥がした絵の具を使って年代分析を掻い潜る手口を使っていた。
熱をかけ、油絵の表面のひび割れさえ再現したという。
「そういうことだ。あの家には当時の絵画が多く残っていたからな。そして腕のいい複製画家……つまり俺を雇った」
美術館の使命は、研究・保存・公開の3つの柱から成る。
しかし保存と公開というテーマは双極にある。
完璧な保存を望むなら公開など不可能であり、公開するならば劣化は免れない。
その溝を埋めるのが複製画家だ。
真作と寸分違わぬ複製画を作り、経年変化により展示に耐えられない作品を保護し、且つ学術的に広めるために公開する。
腕のいい複製画家によるものならばその手で真作と判別がつかない事はある。
しかし贋作を作るとなると美術界での生命を絶たれるも同然。
一度贋作者として知られてしまえば信用は地に落ちるのだから、その一線は容易に飛び越えられるものではない。
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