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III
ハロルド=マグナフォン様はお嬢様の婚約者である。性格は真面目で堅物。黒髪をぴっちりワックスで整えて、がっしりとした体格をしている。乗馬を趣味にしているというだけあって、男らしい所作が目をひく。
「すまないが私の婚約者に手を出さないでいただこう」
このひとことだけで、チャラ男を退散できるだけの眼光があった。とはいえ、チャラ男も負けてはいない。チャラ男は”またねビオちゃん〜(ちゅっ)”と言った感じで去っていく。チャラ男の投げキス、初めて見た。私は危機を救ってくれたハロルド様に礼をした。
「助けていただいてありがとうございます」
「……?」
(ヤバい。ホンモノのお嬢様はこんなこと言わないですよ!)
むしろ「邪魔しないで」と不機嫌にむくれるところだ。
しかし! 私に咄嗟のお嬢様なりきりプレイが出来るほどの対応力はなかった。もしそのようなスキルがあれば、こんな仕事はゴミ箱に華麗に放り込んで一家で演劇座でも開いている。
(こんなときは黙って手でも繋ぐに限ります!)
これはビッ……社交的なお嬢様の身体なのだ。多少の身体接触ぐらいでは何も毀損されることはない。案の定、ハロルド様は話題を変える。
「今日のドレスは、その、ちょうど良いな。そういう系統を選んでくれると助かる」
「はい」
(お嬢様は”つまらない男”って愚痴愚痴言ってたけど、一般的な物差しで測るなら普通に良い男なんですよね)
いや、むしろ。
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