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V
【さらに一ヶ月後】
そんな私のニセモノ生活は、呆気なく終わりを迎えた。
「今日もハロルドが来るわ。じゃあ、よろしく」
「あ、あの……お嬢様。まだ、私、変身しておりません」
「鏡はなくしたの」
(え? えぇ??)
「あのクソ魔術師、何が”この鏡を使えば貴女の悩みは全て解決する”よ。まぁ、いいわ。よろしく」
動揺する私を置いて、ビオラお嬢様は華麗に部屋を出て行った。
(いや、出て行かれても困りますが??)
魔法の鏡がなければ、私はお嬢様のニセモノにはなれない。つまり、ハロルド様との約束をすっぽかすことになるのだ。
一刻後、お嬢様の言った通り、ハロルド様がお屋敷までやって来られた。私は普段の立ち位置とは違う、お嬢様のメイドとしてハロルド様に応対する。
「ビオラはどこだ?」
「お嬢様はその、お休みになられました」
「今日は以前、彼女が行きたがっていたビジュー美術館のチケットがたまたま取れたから誘ったのだが、そうか……」
(!)
ビジュー美術館、それは私が以前のデートで行きたいと漏らしたところだ。一年先まで予約が埋まっていて、とてもではないが見ることは叶わない。
「……君、行きたいのか?」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。メイドとしてあるまじき失態だ。
「二人分のチケットがある。ビオラが居ないのであれば私は行かないつもりだ。だが、もし、君が一緒に来てくれるというのなら、貴重な二人分のチケットを無駄にせずに済む。この家の人達には私から話をつけておこう」
以前から行きたかった美術館、そしてハロルド様とのニセモノではない私自身とのデート。それは私が望むものでしかない。
(でも、でもでも。待って。そんなうまい話に乗ってしまうなんて軽率で良いの?)
貞淑でありたい。私は中身はお調子者のきらいがあるけれど、根は真面目で良い子で居たいのだ。だから、私はお嬢様と違って誘惑に負けたりしない。絶対!
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