おはよう世界、おやすみ世界

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おはよう世界、おやすみ世界

「美月朝よ!アラームも鳴ってるじゃない。早く起きなさい」    いつもとなんら変わりのない朝。けたたましく鳴るアラームを止めてから、母の小言が聞こえてくる。  そんなはずだったのに、今日は違う。 「あら美月、まだ眠いの?ゆっくり寝てなさい。どうせ予定もないのだし」  母が小言を言ってこなかった。  いつもならあんなに小言まみれなのに、むしろ今日は美月にとって都合のいいことを言っていた。普段でも休日なら起こしてこないし、「曜日勘違いしてたかな」とおもむろに布団から手を出し、充電コードに差しっぱのスマホの画面をつけた。  そこには、七時三十分という時刻と共に、水曜日という文字が書かれていた。 「え、今日普通に水曜日じゃん!」  なんで起こしてくれないとの心の中で母に愚痴を言いながら、美月は自分のクローゼットを開けた。 「あれ……」  しかし、クローゼットのどこを探しても学校の制服が見当たらないのだ。昨日かけたはずの場所を見ても、何もかかっていなかった。  となると制服は後回しだ。美月は今日の授業の用意をしようと、今日必要な教科書などをカバンに入れようとした。  しかし、ここでも不思議なことが起こっていた。 「なんで教科書が一冊もないの……?」  普段美月が教科書を立てているところを見ても、教科書が一冊も立っていなかったのだ。そこに立っていたのは、美月お気に入りの本数冊だけだった。  他にも、普段学校で使っているカバンも見当たらなかった。美月の部屋から、学校用具が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。 「時間ないのに……!」  美月は時計を一瞥してから部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。  朝ごはんの用意をしているであろう母親と、仕事前の父親がいるであろうリビングに入ると同時に、美月は半ば叫ぶような勢いで母親に問いかけた。 「お母さん!私の学校用具全部無くなってるんだけど。何処にあるか知らない?」  急にでかい声を出したから驚いたのか、母は肩を小さく震わせて美月の方を振り向いた。  その顔は、きょとんとしていた。 「学校?何よそれ。そんなことより朝ごはんできてるけど、食べる?」 「なんで!私いつも平日は高校行ってるじゃん。今日も水曜日だから学校行かないのいけないの!」  母は「朝から何言ってるのよ」とため息をつきながら私に説明し始めた。 「いい?美月。朝だから寝ぼけているのかなんなのか知らないけど、この世界にその学校とやらは存在しないのよ。この世界の人たちは、家でゆっくり過ごしたりしながら生活していくのよ」 「……」  よく見ると、いつもこの時間はスーツで新聞を読んでいる父親が、私服でまったりテレビを見ていた。 「お父さん、仕事行かないの?」    そう聞くと、テレビを見ていた父の代わりに母が答えた。 「仕事なんてないわよ。この世界の人は働かないのよ」    どうしちゃったの美月、といいながら母は朝ごはんの支度を続けている。  やはり何かがおかしい。  父が見ているニュース番組も、アナウンサーが人間ではなくらAIだった。  もしかして未来にきちゃったのかと馬鹿げたことを考えた私は、近くに掛けてあったカレンダーを見た。  そこには、昨日と同じ年度が書かれていた。 「……なんで」 「美月ー?ご飯食べる?」  こんな中でまったりご飯を食べていられる気がしなかった私は、「いらない」と母に答えて自室に戻った。
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