十年後 姉(フィリア)視点

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十年後 姉(フィリア)視点

「想像よりはるかに、レジネスとルダスに統治能力がない。二人とも浮気して遊んでばかりで、領地にも寄りつかん」  疲れ切ったお父様が、城にいらした。  ええ。知ってた。  さあ。すべて私が奪い返しましょうね! 「第二王子ノヴァに、公爵家を継ぐよう伝えてあります」 「最初からフィリアは、そのつもりだったのか?」 「まさか、私が公爵家を守るつもりでした。ですが不可能でしたから」 「なぜ?」 「妹が邪魔したでしょう? ご存じでしたでしょう?」 「ああ。まあ……」  お父様は、ご自分が被害者のような顔をする。 「注目され、ちやほやされないと気が済まないルダスに育てたのは、お父様でしょう?」 「……そうかもしれん」 「家も領民も、私と息子が守ります。代わりに、二つ約束してください」 「ああ。何でも」 「公爵家の評判を地に落とす前に、一日も早くレジネスとルダスに家督放棄させ、追い出してください」 「もう一つは?」 「お父様は、必ず長生きしてください」 「……ありがとう。フィリア。うっ。ありがとう」  涙ぐむお父様を見て、私は歓喜した。  私の中の、幼い泣き虫のフィリアが顔をあげる。 「ルダスは身体が弱いんだ。人形くらいあげなさい。お姉様なんだから」 「はい」 「人形で遊ぶ暇があるなら、外国語の勉強をしなさい。異国との社交は、フィリアの役目なのだから」 「はい」  妹ばかりを甘やかし続けたお父様。  デビュタントさえ、妹を優先したお父様。  婚約者を奪っても、妹を叱らなかったお父様。  好きで「お姉様」になったわけじゃない。  人形でも、本でも、奪われるたびに悲しかったよ?  ボロボロにされるたび、私も傷ついたよ?  妹を止めて欲しかった。  味方して欲しかった。  お父様、あの家で私は、辛かったんだよ? 「よかったね。フィリア。逃げられて」  語りかけると、幼いフィリアは、やっと笑った───
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