38人が本棚に入れています
本棚に追加
十年後 姉(フィリア)視点
「想像よりはるかに、レジネスとルダスに統治能力がない。二人とも浮気して遊んでばかりで、領地にも寄りつかん」
疲れ切ったお父様が、城にいらした。
ええ。知ってた。
さあ。すべて私が奪い返しましょうね!
「第二王子ノヴァに、公爵家を継ぐよう伝えてあります」
「最初からフィリアは、そのつもりだったのか?」
「まさか、私が公爵家を守るつもりでした。ですが不可能でしたから」
「なぜ?」
「妹が邪魔したでしょう? ご存じでしたでしょう?」
「ああ。まあ……」
お父様は、ご自分が被害者のような顔をする。
「注目され、ちやほやされないと気が済まないルダスに育てたのは、お父様でしょう?」
「……そうかもしれん」
「家も領民も、私と息子が守ります。代わりに、二つ約束してください」
「ああ。何でも」
「公爵家の評判を地に落とす前に、一日も早くレジネスとルダスに家督放棄させ、追い出してください」
「もう一つは?」
「お父様は、必ず長生きしてください」
「……ありがとう。フィリア。うっ。ありがとう」
涙ぐむお父様を見て、私は歓喜した。
私の中の、幼い泣き虫のフィリアが顔をあげる。
「ルダスは身体が弱いんだ。人形くらいあげなさい。お姉様なんだから」
「はい」
「人形で遊ぶ暇があるなら、外国語の勉強をしなさい。異国との社交は、フィリアの役目なのだから」
「はい」
妹ばかりを甘やかし続けたお父様。
デビュタントさえ、妹を優先したお父様。
婚約者を奪っても、妹を叱らなかったお父様。
好きで「お姉様」になったわけじゃない。
人形でも、本でも、奪われるたびに悲しかったよ?
ボロボロにされるたび、私も傷ついたよ?
妹を止めて欲しかった。
味方して欲しかった。
お父様、あの家で私は、辛かったんだよ?
「よかったね。フィリア。逃げられて」
語りかけると、幼いフィリアは、やっと笑った───
最初のコメントを投稿しよう!