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「あれれ? 今、変な鳴き声が聞こえたわ!」
レイラは立ち上がり、右に左に上下にと馬車のあちこちに目をやる。
「シッ!」
ムクターは人差し指を唇の前に立て、おんぼろ馬車を静かに止めた。
ゴトゴト、ゴトゴト
「母さんが腰掛けてる木箱から音がするわ」
マブルーカはさっと立ってムクターのそばに退く。
レイラは母親が腰かけていた木箱の蓋に手をかけようとした。
「レイラ駄目だ! 後ろに下がっていなさい」
ムクターはレイラとマブルーカに馬車から降りるよう指示した。
「あなた、用心して」
マブルーカはレイラをそっと抱きしめた。
「わかってる」
ムクターは長い棒切れを握り締めると、棒の先でそっと木箱の蓋を開けた。
「プルルー」
「あっ、子猫だわ!」
木箱の中から、大きさからして生後三ヶ月と思われる、一匹のリビア山猫の子猫が姿をあらわした。
毛は短めで虎猫のような毛色をして尻尾は長く先が細い。
「可愛いー。この子、男の子よ」
レイラは馬車に飛び乗り、嬉しそうに木箱から子猫を抱きかかえる。
「にゃー、にゃー」
可愛く鳴きながら愛くるしい目で、まるでお母さんを見るようにレイラをみつめる。
「きみは、いつ木箱にもぐりこんだの?」
レイラは猫に鼻を近づけて合わせた。
猫は野生種なのにすなおに応じる。人なつっこさがすぐに伝わる。
「にゃー」
耳元で小さく鳴く。
「おなかが空いているのね」
レイラは山羊のミルクを与えてみた。
鼻の頭をミルクで白く染めながらペロッと平らげた。
「プルルー」
猫はレイラを見あげ嬉しそうに鳴く。
「その野良猫、変な声で鳴くわね」
マブルーカが不思議な生き物でも見るように目を大きく見開く。
「ね、父さん、飼っていい?」
レイラは子猫をギュウと抱き締めた。
「もちろん良いよ」
ムクターはにっこり微笑む。
猫は穀物や書類をネズミの害から守ってくれる、ありがたい存在だから断る理由はない。
それに何よりリビア人はエジプト人に負けないくらい猫好きなのだから。
「わぁ、嬉しい! お父さんありがとう!」
レイラは子猫の両脇をかかえて鼻キッスした。
「レイラ、よかったわね」
マブルーカも思わぬ助っ人の登場に大喜びのようだ。
「あなたの名前はネジムにするわ」
「プルルー」
「ネジムは嬉しいとプルルって鳴くんだ」
「プルルー」
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