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ネジムが頬を繰り返しレイラの足に擦り付けるものだから、レイラは可愛くて仕方が無い。
もうすっかりネジムは家族の一員となった。
「さ、エジプトに乗り込むぞ!」
ムクターの掛け声と同時に馬車がリビアとエジプトの国境を越えた。
「きゃ! 父さんエジプトに入ったね! やったー! やったー!」
レイラは胸が一杯になって立ち上がり、何度もジャンプした。
ネジムは驚きまん丸い目玉をさらに大きくした。
「うん、エジプトだ」
ムクターが手綱を握り締めた。
家族の夢と希望を乗せた馬車が広大な砂漠を勢いよく走る。
「プルルー」
ネジムが喜びの声をあげた。
エジプトは猫の大国でもあるのだ。それをネジムは知っているのかもしれない。
「父さん、エジプトのどこの町に行くの?」
レイラが期待をこめて大きな瞳を輝かせた。
肩にかかる長い髪が風に揺らめく。
「猫の女神様バステトが守っている町、ブバスティスさ」
ムクターはそう言ってネジムの頭を撫でた。
バステトは古代エジプト神話に登場する猫の姿をした女神で、邪悪な霊や病魔から人間を守る慈愛の女神である。
首都ブバスティスはナイルデルタにあるバステト神の崇拝の拠点なのだ。
「わぁ、すごい! 猫神様だなんて最高!」
猫の神様と聞いてレイラは父親に思わず抱きついた。
「猫と人間の楽園だ」
ムクターの胸も夢と希望に溢れた。
「ネジム、君はきっと幸せになれるわ!」
レイラはネジムを拾い上げ満面の笑顔をみせた。
「プルルー!」
ネジムもとびっきり嬉しそうに鳴いた。
こうしてリビア人家族がまた一組、豊かさに憧れて黄金の都エジプトに移り住んだ。
エジプトの国境を越えたムクター一家の馬車は、砂漠地帯を何日もかけて、東へ東へと進んだ。そしてメンフィスでナイル川を航行するブバスティス行きの船に乗った。
「父さん、ナイルの辺には緑がいっぱいだね」
父親と母親の間にはさまれ、レイラは明るく顔を輝かせながらデッキの手すりを握りしめる。
川縁で洗濯をしている女たちや漁をする男たち、水浴びする子供たちの姿。その先に見渡す限り緑の大地が広がっていた。
「豊かな水と土地、これがエジプトだよ」
ムクターの声に自信がみなぎる。
「まるで別世界に来たようだわ」
マブルーカも興奮ぎみだ。
「母さん、ほんとに黄金の都だね」
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