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「あたしはそんなに欲張りじゃないわ」
「母さん、黄金の話ばっかりしてたじゃない」
「リビアの生活が貧しかったから、つい」
マブルーカは情けないといったふうに肩をすくめた。
「マブルーカ、レイラ、これからは食べ物に困らない、豊かな生活をさせてやるからな」
レイラとマブルーカの会話を、黙って聞いていたムクターが遠くの巨大な石像を指差しながら二人にむかって言った。
「わぁ! 巨大な猫の石像だわ」
港の入り口に猫の象が立っていた。
「あれが猫の神様、バステト?」
「そうさ、バステト神様だよ」
船がブバスティスの港にさしかかると、二体の巨大なバステトの像が家族を出迎えた。
「母さん、すごく大きな猫の像だね」
レイラは巨大な猫を仰ぎみた。
「大きな金色の瞳に見つめられると、心の底まで見透かされるような気がするわ」
マブルーカは、言葉にできない神秘的な何かを感じた。
「母さんが感じている通りかも知れないよ」
ムクターは妻の手を優しく握る。
マブルーカもじっと握り返す。
「あたしもそんな気がする」
レイラはそういってバステト神の金色の瞳をもう一度見つめた。
ムクター一家を乗せた船が、ゆっくりと巨大な石像の真横を通過すると、船は静かにブバスティスの港に到着した。
「さすが猫の町ね!」
出迎えた沢山の猫たちに、マブルーカが目を見張る。
「ネジム、よかったね。お友達がたくさんいるよ」
レイラはネジムの頭を撫でると、右手でポンと胸に抱きかかえ船をおりた。
ムクター一家が船着き場に足を踏み入れると、大小様々な猫たちからあっという間に取り囲まれた。
人慣れしているのか餌をくれと足に頬をすりつけたり足に絡みついたり。
エジプト人は猫好きで猫を愛していたという。猫好きの国民性に加え、この時代のエジプトは、特に猫好きのリビア系の王が統治していたので、エジプトは王朝始まって以来の猫黄金時代となっていたのだ。
猫達はエジプトのいたるところで飼われ、増やされ、保護され、国の法律で守られた。しかし国外へ持ち出すことを固く禁じられたため、家猫が世界に広まるのを遅らせた原因とも言われている。
こうしてエジプトで可愛がられ、保護され、増やされた猫は百万匹いたと伝えられている。
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