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古代ギリシアの歴史作家ヘロドトスは著書“歴史”の中で「もし誰かが猫をエジプトから国外に不法に持ち出そうものなら、その人間は死刑か厳罰に処せられた。万が一、人間が猫を殺したり怪我させたりしようものなら、その人間は直ちに死刑にされるか、さもなくば町中の人々から袋叩きにあった」と記している。
エジプト人の猫に対する愛情はとても深く、もし可愛がっていた猫が死ねば、飼い主は眉毛を剃り落として喪に服し、亡くなった猫は各地のバステト神殿の霊廟に運ばれミイラにされて聖墓に葬られた。
エジプトでこれほどまでに猫が大切にされたのは、ただ単に猫好き猫が可愛いというだけではない。猫がネズミから穀物を守り、ネズミを介して広がる疫病を防いでくれ、蛇から人を守り退治するという現実的な理由もあったのだ。
ブバスティスの町はナイルの恵みをうけた肥沃な大地が広がり、多くの人が農業に従事していた。もちろん町のいたるところには沢山の猫がいて、町の人々からとても大切にされている。
「まず町の中心部にあるバステト神殿に行って猫の神様に御挨拶しよう!」
ムクターは大袈裟に腕を上げ、町の中心部を指さした。
町のどこからでもながめることが出来る壮大で贅を尽くした神殿が目に飛び込んできた。
「あなた、きっと運が開けるわ」
マブルーカは満面の笑みを浮かべながら胸の辺りで手を組む。
「もう苦労させないよ」
ムクターはそういってマブルーカの肩を抱き寄せた。
「父さんも、母さんも、ラブラブね!」
ムクターとマブルーカは赤面してお互いを見合う。
「プルルー」
ネジムの頬が嬉しさに緩んだ。
「ほらネジムも喜んでるわ」
レイラは大きな黒い瞳を輝かせネジムをギュウと抱きしめた。
お昼を少し過ぎた頃、ムクター一家はブバスティスの市場に到着した。
「市場、物凄い熱気だね」
レイラは人ごみでごった返す市場の活気に圧倒された。
八百屋、肉屋、陶器売り、怪しげな薬草を売る屋台など、ありとあらゆる物が売られている。
「小さな町だけど、いま、エジプトで一番活気溢れる町なんだ」
ムクターも、様々な人種が行き交うこの町の熱気に煽られ、全身にパワーがみなぎるのを感じた。
「父さん、はやくバステト神殿に行こうよ!」
レイラは小さな籠にネジムを入れた。
「市場のメイン・ストリートを北へ向かえば、神殿の近道だと聞いたよ」
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