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「じゃ、急ぎましょう! はやく猫の神様に会いたいわ」
マブルーカは、黄金のバステト像を拝めると心躍る思いだった。
「母さん、また黄金病でしょう」
レイラは母親をあきれ顔で見る。
「あたしはバステト様のありがたいお姿を早く拝みたいだけなの」
ムキになって否定したが、頬は緩んでいた。
「母さんの期待どおりかもしれないよ。何せここは黄金の都エジプトだからね」
ムクターが片目を瞑ってみせる。
「失礼ね、黄金が目当てじゃないわ!」
マブルーカは顔を真っ赤にした。
「黄金の神殿にレッツ・ゴー!」
神殿にむかって駆け出すレイラに、「レイラ! 危ないから走るのやめなさい!」マブルーカが大きな声で注意する。
「父さん、母さん、早く、早く!」
レイラはどんどん駆けて行く。
「マブルーカ、ぼく達も走ろう!」
そう言って夫婦も駆け出し、どんどん小さくなっていく娘の後ろ姿を追いかけた。
「あ、神殿が……」
五分ほど走ると、レイラはバステト神殿の正門に着いた。
神殿の入り口以外はすべて島で、ナイルから幅がおよそ30メートルほどの二本の運河が神殿の入り口に達し取り囲んでいる。正門の大きな楼門には3メートルほどの見事な彫刻が彫られ、その両脇にはお座りのポーズで二体のバステト神の石像が並ぶ。門を潜り抜けると長さ約500メートル、幅30メートルほどの石が敷き詰められた参道がのび、その先に、高さ30メートルはありそうな荘厳な大理石の神殿がそびえ立っていた。神域の総面積は3万平方メートルほどの巨大な神殿だ。
(神殿が巨大な美術品のようだわ)
レイラはネジムを入れた籠を抱きかかえ、ゆっくりと神殿の門を潜り抜けた。すると、神殿の敷地内に大小の様々な柄の猫が沢山いて、思い思い好きな場所で好きな事をしながら心地よさそうに遊んでいた。
「プルルー」
猫の鳴き声と匂いに、籠の中のネジムが騒ぎ始めた。
「にゃー、にゃー」
ゴトゴト、ガリガリ、バタバタ!
「もう、ネジム騒がないで。気になるんだね。すぐに籠から出してあげるわ」
そう言うとレイラはネジムが入った籠を地面に下ろし、籠の蓋をそっと開けた。
「プルルー」
ネジムは嬉しそうに声を上げ、外へ飛び出し、一目散に神殿の中へ走って行った。
「ネジム!」
驚いたレイラは「待ちなさい!」と叫んだが遅かった。
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