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じぃっと答えを待つような間に耐え切れず、適当な言い訳をでっちあげて言葉にする。
「緊張しちゃうんだ、天成くんみたいな人と話すの。ほら、私陰キャだから」
「そう」
すうっと吸い込んだ息の音に、これでおしまいだとわかった。
今日をうまく乗り切った。
天成くんは、なぜかこんな私にいつも話しかけてくれる。
心が惹かれてしまうのだけは、避けないといけない。
だって、私は天成くんを好きになる資格なんてないのだから。
天成くんの足を見ながら、わざとらしすぎるくらいゆっくり進んで、遠ざかるのを待つ。
いつまでたっても、天成くんの足は私と並んで進む。
何かあるのかと、顔を上げればズイっと顔が近くにいて驚いてしまう。
「ひゃっ」
どくんっと心臓が跳ねて、体中に熱が走っていく。
天成くんは、笑い声をあげて、細い腰を自分の腕で抱きしめる。
「ははっ! そんな声出せんだ、唯野さんって」
「笑わないで、よ」
緊張のあまり、唇の右側がヒクヒクとする。
うるさいくらい音を立てる心臓を手のひらで押さえつけて、天成くんの口を見つめた。
少しだけ、緩んだ頬に目が止まる。
そして、天成くんは、指でメガネを作って目元を覆う。
「唯野さんって、メガネだったけ?」
可愛い仕草に、また、脈が早くなる。
あれ、でも、普通に会話できてる?
普通がわからないくせに、普通じゃないのに、ううん、だからこそ私は普通にこだわってしまう。
「ずーっと、メガネだよ?」
メガネを押し上げるしぐさをして、元々だよ、と伝えてみせた。
天成くんは不思議そうな顔をして、上擦った声で答える。
「そっか、俺のかんちがい」
「そうだね」
「ね、友だちになろ。俺、唯野さんと今友だちにならないとダメな気がする」
ひゅっと喉の奥が詰まる感覚がする。
友だちになろう、なんて小学生以来に聞いた。つい笑いそうになってしまった。
それでも、言葉の重みに胸が締め付けられている。
私が天成くんと友だちになるだなんておこがましい。
胸の中では好きになってはいけないと、言い聞かせる思いがふくれあがっているのに。
「むり」
なんとか一言だけ言葉にすれば、天成くんはむっとしたように頬を膨らませる。
その仕草すら、私の心を惹きつけてやまないのが、もはや憎らしくまで思えた。
不意に「憎いは愛情の裏返しだよ」なんて誰かの言葉がよぎった。
誰かが言っていた言葉、誰か、なんて今はどうでもいい。
それよりも、どう逃げればいいのか考えることに必死だった。
「なんで」
「むりむり、天成くんと友だちなんて無理!」
「なんだよそれ。これ以上絡んだら、嫌われそうだから、今日はここまでにする。またね! 唯野さん」
ひらひらと手のひらを振って、軽く走り出す天成くんの後ろ姿を見つめる。
校門はもう目の前に来ていて、自分から友だちにはなれないと断ったくせに、ほかの人に見られたら困るから? と勝手な理由付けをして心が落ち込んだ。
天成くんの大きな背中は太陽に照らされて、とても暑そうに見えた。
触れたらきっと火傷してしまう。
触れられる距離にはいないのだけど。
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