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第二章 君と初めての夏祭り
天成くんはあれから、私によく話しかけてくる。
何かに気付いてるのかもと思ったけど、どうやらそうではないみたいだ。
学校の中でも、外でも、私にあいさつだけを投げかけては、私が答えるまでじっと待つ。
それは、夏休みを挟んだ今も変わらず。
夏休みの間は、クラスメイトたちの顔も、天成くんの顔も見ずに、少しの寂しさを感じていたけど。
それでも、天成くんと関わらない夏休みに安堵していた。
私が関われば、天成くんは来年の八月には、死んでしまう。
もう二度と、あんな悪夢は見たくなかった。
帰る準備をしながら、今日は来なかったと安心した瞬間、天成くんの顔が目に入る。
探しているつもりはないけど、天成くん曰く、帰る準備をしてる私は探すような視線の動かし方らしい。
自覚はないけど、もうすでに天成くんに心惹かれてる。
わかってる。
だって、天成くんはまっすぐに私を見つめて、名前を呼んでくれる。
話しかけてくれる。
クラスメイトたちは遠巻きに、ジトと見つめるだけなのに。
学校の時間は、天成くんがいないと苦痛で、息が詰まった。
「唯野さん、今日も一緒に帰るよね?」
私の机に腕をついて、首をかしげながら決まったことのように口にする。
私は「いいえ」も「うん」も怖くて言葉にできない。
だって天成くんはクラスの中でも、学校の中でも、かっこいいし、モテる部類に入る。
それが、こんな疫病神と一緒にいるだけでも気に食わない人は多いだろう。
クラスの人たちの視線は、いつだって私に冷たい。
それも、当たり前か。
何か悪いことが起これば、全て私のせいだと言わんばかりにこちらを見つめるのだから。
発端は遠い記憶すぎて思い出せない。
小学生の頃に、学校で飼ってるうさぎが病気になった時から?
その時も、「唯野さんだよね、最後にお世話したの」と責められたことだけは、うっすら覚えている。
中学高校に上がっても、誰かは私の昔の噂を知っていて、いつのまにかクラス中が遠目に私を見つめるようになっていた。
だから、自意識過剰だとわかっていても、クラス中の視線が突き刺さる。
答えないまま、カバンに荷物を詰め込めば、人質のようにカバンを天成くんに奪われた。
「はい、帰ろう」
ここでも私は「はい」も「いいえ」も答えれずに、ただカバンを追いかけてしまう。
一緒に帰りたくないわけじゃない。
天成くんと話せることは、正直嬉しい。
でも、私は天成くんの横に立てるような人間ではない。
私と関われば、天成くんは不幸になってしまう。
だから、どちらとも答えられない。
ずるくて、弱い自分に、嫌気が差した。
もっとはっきり断ればいいのに。
それでも、ずるずると天成くんとの関わりを求めてしまう。
校舎を出れば、ジリジリと太陽に肌を焼かれる。
生徒たちは、帰り道どこにいくかの相談をしながら、跳ねるようにそれぞれの目的地へ進んでいく。
私たちは、二人で帰るお決まりのルートの途中、いつもの公園へと向かう。
学校から五分ほど歩いたところにある、小さな公園。
トイレと、ブランコ、滑り台くらいしかないような公園だ。
天成くんのお気に入りは、ブランコ。
いつも、公園に入ったと思えば、一直線に向かっていく。
そして、ブランコを揺らしながら、天成くんは私に話しかける。
「高校生にもなってブランコ?」って言ったこともあるけど、「楽しいからいいだろ」と押し切られた。
それ以来二人で、並んでブランコを揺らすのがお決まりになっていた。
「唯野さんって、明日の夜何してる?」
「何もしてないです」
できるだけ淡々と答える。
肩まで伸びた髪の毛が、首筋に触れてくすぐったい。
ブランコが揺れるたびに、生ぬるい風が体を通り抜けていく。
「浴衣とか持ってる?」
「なんでですか?」
私は、結局天成くんと、雑談する仲になってしまった。
私が逃げれば逃げるほど、天成くんは私を追いかけ回す。
嬉しいのと悲しいので、毎日感情がジェットコースターだ。
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