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第一章 始まりの悪夢
彼が死んだ夢を見た。
悪夢だよと彼に笑い飛ばしてほしくて、話してみる。
大きな怪獣にぺろりと食べられる夢や、お菓子を食べすぎて歯が全部抜け落ちる夢。
その全てを彼はいつも、笑い飛ばしてくれた。
でも、「今日死ぬんだよ、本当に」と、その言葉は口にできなかった。
だって悪い夢だったと思い込んでも、じっとりと汗ばんだ体は変わらないし、あの時の胸の痛みは本物だった。
そして、伝えたところで、困ったように眉毛を八の字に下げるだけなのがわかっていたから。
「また怖い夢の話か。大丈夫だって、俺そんなに弱そうに見える?」
ほっと胸を撫で下ろす。
もし本当になってしまったとしても、君となら大丈夫な気がする。
たとえば、死なないためにできることを探し出すとか。
答えはすぐには見つけられそうにないけど。
だから、本当でも、今回だけ、今回だけはこの幸せな夢に溺れていてもいいよね?
今回だけ、をもう何回も繰り返した気がするけど。
ブランコに乗ったまま、旅人が怖い気分を吹き飛ばすかのように地面を蹴り飛ばす。
だから、私も同じように地面を蹴り飛ばした。
体がふわりと浮いて、まるで本当に夢だったんじゃないかって思いこんでしまう。
風が私たちの髪の毛を巻き上げて、夕日に体が照らされる。
旅人の横顔も、赤紫に染まっていた。
「夢香は夢みがちだからなぁ」
名前からロマンチストで夢見がちなのわかってたでしょ、は言葉にしない。
旅人だったらきっと、すぐさま否定してくれるのがわかっていたから。
「旅人は、信じていないでしょ」
「ううん、夢香が言うから信じてるよ」
ふふっと笑ってから、足でブレーキをかけた。
地面はかたくて、擦れる感覚がする。
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