0人が本棚に入れています
本棚に追加
「皆さん、演劇に興味はありませんか?」
放課後の学習室に呼ばれた俺は、女の先生からそう聞かれた。えっと、確か一年の英語の先生だったはずだ。
その先生が皆さんと言ったのは、俺の他にも学習室に呼ばれた生徒がいるからだ。一人は俺と同じ二年B組の望月 虹凪さん。背は低いが元気が良く、彼女の周りはいつもキラキラして見える。
「それって、私たちが何かの役になって演技するってことですか?」
望月さんは小さく手を上げ先生に聞く。9月から衣替え習慣が始まったものの、望月さんはまだ夏用の制服を着用していた。
「はい。ぜひ皆さんには、10月にある高校演劇コンクールに出場していただきたいのです」
先生が答え、望月さんは嬉しそうに声を上げる。
「楽しそう! やりたいです!」
顎くらいまで伸びた髪が揺れ、望月さんはそっと耳に掛けた。
「えっと、なんで私に声がかかったんですが?」
そう聞くのは、二年C組の星宮 瑞季さん。一度も話したことはないが、昼の放送でアナウンスをしているため知っていた。望月さんとは対照的で、胸元まで伸びた長い髪と凛とした表情が特徴的な人だ。ちなみに彼女は冬用の制服に変わっているものの、まだ暑いのかブレザーは椅子に掛けられている。
「とても聞きやすい声だと思ったからです。あなたの放送は、聞いていて心地良いです」
先生はそう言い、彼女に微笑んだ。
「ありがとうございます。ですが優美先生、この話は持ち帰ってもいいですか?」
そうだ、優美先生だ。そういえばこの先生、放送委員会の顧問だった気がする。
「構いません。人前に立つのは抵抗ありますか?」
優美先生の質問に星宮さんは首を振る。
「いえ、興味はあります。ですが私、趣味でギターをしているんです。その時間が削られるのはちょっと……」
星宮さんは申し訳なさそうに優美先生を見る。
「素敵な趣味ですね。分かりました、ゆっくり考えてください」
「ありがとうございます。あと、今日親が迎えに来るんです。そろそろ来る時間だと思うので」
「そうなんですね。お気をつけて」
星宮さんは、ぺこりと頭をさげ学習室を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!