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由貴はバイセクシャルだ。
そして俺は決して男なんか好きじゃないのに、一目見た瞬間からコイツの美貌に惹きつけられていて、話しかけられる度にドキドキしてしまっていた自分がいて。
二年前、俺の代の新人歓迎会で酔い潰れた俺を介抱したのが主任の由貴だった。
多分に酔った勢いというものがあったとは思う。
(いや、酔った勢い以外の何ものでもねぇな……)
何故か由貴の方も俺に興味があったらしく、てっきり俺の家に送られるものだと思っていたらコイツのマンションにお持ち帰りされて、「颯くん、僕のことずっと見てましたよね? 見つめられる愛が重いんですけど?」なんて唆されて。
図らずも、美しい白磁の肌をアルコールでほんのり紅く染めながら誘うような真似をしてくる由貴を、男なんて守備範囲外のはずが薫り立てるような嬌笑に妙な情欲を煽られてめちゃくちゃに組み敷いてやろうと思ったら。
困ったことにめちゃくちゃに組み敷かれたのは俺の方で。
何の因果か知らないが、「僕も見つめられる愛に応えてもいいですか?」なんて言われて、初めて経験した破瓜の痛みや未知の快楽に戸惑いながらもこんなに綺麗な人間をそばに置いておけるなら……と、その問いに頷いた。
それ以来俺たちは恋人ということになって、かれこれ二年と少し。
しかし、〝恋人〟のはずなのにコイツはいつも飄々としていていやがって。
その美貌から纏わりつく女が(それほど大っぴらではないが男も)後を絶たなくて、俺はいつもイライライライラしている。
由貴の方から誘ってきたくせに、今ではすっかり俺の方が由貴に逆上せていて、俺の方が由貴を追いかけていているのが現状だ。
監禁して閉じ込めてやりたいくらいには、俺はコイツに執着している。
由貴はそんな俺の内心を知ってか知らずか、ここ最近はまるで挑発するかのような行動ばかりしてくるようになって――。
この間は首筋にキスマークがあった。
勿論、俺がつけたものではない。
俺がこんな性格だから、女々しく問い詰めることが出来ないのをわかっている上でやっているから性質が悪い。
思わず煙草に火を点けて銜えるとシャワーから出てきた由貴が俺の横に座って煙草を親指と人差し指で取り上げて、灰皿に揉み消した。
「颯くん? キスする前は煙草吸わないでって言いましたよね?」
「うっせ、さっき散々しただろうが」
由貴が、婀娜っぽく微笑んだ。
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