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1.孤独な刑事、魔術師を拾う
ミルバンク地区にある、ミルバンク監獄の跡地に建設された国立美術館、「テート・ブリテン」。
その美術館の近くに、おれ――エドワード・ウィルクスの下宿はある。
下宿の外観はヴィクトリア朝期に建てられた赤レンガのテラスハウス(アパート)で、おれのフラット(部屋)は四階、東の角部屋だ。
ロンドンにしか無いローカル・チェーンのファストフード店、『マギーズ・テラス』のコーヒー&チョコレートシェイク(Lサイズ)を片手に持ち、片手にチーズバーガーとフライドポテトの入った袋を提げている、今のおれ。これで十五ポンド(三千円)くらい、やっぱり物価が高くなったなと、ひしひしと感じる。おれはスコットランドヤード(ロンドン警視庁)の刑事だから、公僕にしては給料はわりといいほうだけれど、とは言え暗澹たる気持ちになる瞬間だ。
なんてことを思いつつ、シェイクの中身をこぼさないように、慎重にフラットの鍵を開けた。鍵は防犯を考え、三つ付けている。
扉を入ってすぐに置いた中古のコーヒーテーブル(ティファニー・ブルーのような色合いのペンキ塗りが、明るい気分にしてくれる。お気に入りだ)の上にシェイクと本日の夕飯が入った袋を置いて、扉を閉め施錠。郵便をチェックし、そのまま寝室の、少々ペンキが剥がれかけてきた白い扉をノックした。
中から返事は無い。
寝てるのかな……と思いつつ、もう一度玄関へ戻る。コーヒーテーブルに残してきたシェイクと食料を両腕に抱え、それをキッチンに運んで、冷えたチーズバーガーをもう一度グリルすることを検討した。そうしながら、無性に煙草が吸いたくなって、シェイクと袋はそのままに、キッチンの窓を開けてシガレットケースから一本抜き取り、口に咥えた。
一服していると、夜気の中に、テムズ河がゆっくりと流れていくのが見える。水面に行き交う車のヘッドライトが反射して、きらきらときれいだ。外は凍てつくように寒く、おれは仕事帰りのスーツに黒いダウンコート姿のままで、左手で自分の右肘を掴み、紫煙を燻らせた。
二〇二×年、十一月十四日のことだ。
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