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——去年の冬。
その子は私にあるお願いをした。
何処から流れた話かは知らないけど、一部の特定の人だけに広がった私の噂。
「できるんだよね?」
「うん、いいよ」
ニコリと笑みを浮かべれば、その子はホッとしたのか柔らかな笑みを私に向けた。
大切な友達の頼みなんだから、きいてあげないわけにはいかないよね。
翌日、私はその子の家へと向かい、二人で近場の信号までの道を楽しく会話しながら歩く。
青い信号が見えてくると歩く速度を緩め、赤に変わるタイミングでピッタリと立ち止まる。
「一つ約束してほしいことがあるの」
「なあに?」
その子の言葉に頷けば「ありがとう」と言って足を一歩と前に踏み出す。
信号は赤。
横から来た車に轢かれ、その子は亡くなった。
すっかり忘れてたけど、丁度冬のタイミングで夢に出てくるなんてね。
「約束だったよね。この場所に来てほしいって」
まさか、学校帰りのあの花束で思い出すとは思わなかったけど、もう名前も忘れたこの子が安らかに眠れることを願う。
ついでに思い出した、学校帰りにある、花束が置かれていた信号で亡くなった子は、幸せになれただろうか。
本当に噂ってどこから流れるかわからない。
自殺をしたい人は、私に頼めば見届けてくれるなんて。
噂というより事実だけど、この話が広がるのがその一部の人だけというのが不思議ではある。
きっと、そういう人達は周りに知られたくないんだろう。
だから同じ思いの人にしか話は回らない。
いつかこの辺は、花束だらけになるんじゃないだろうか。
何人目か、なんて名前かなんて覚えていない。
居なくなった人の事は、最初から居なかったように私は生活をする。
その子との楽しかった出来事もあるのかもしれないけど、私が出来ることは最後を見送るだけ。
死にたいのに一人は寂しいなんて言われたら可哀想だから。
「なあ、噂聞いたんだけどさ」
私の腕を引いて助けてくれたこの男子も、やっぱり噂から近づいてきた人だったみたい。
いつも仲良くなる相手は同じお願いをする。
でも、友達だから協力するのは当然だよね。
名前も忘れたキミの最後を、私だけは見届けてあげる。
《完》
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