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7月末の平日昼間…前期のテストを終えたばかりの私たちは、大学から電車で3駅の所にある水族館の前で待ち合わせをした。
「小花くん、おはよう」
「おはよう…三角さん」
ぎこちない会話を交わしながら、ぎこちない距離感で私たちは水色のゲートを潜った。
小花くんは通路の広さやトイレの場所、車椅子のお客さんの様子を気にしながらも楽しそうに写真を撮っている。
初めに【ペンギンゾーン】へ行き、それから【巨大水槽ゾーン】へ…メインの水槽と、通路を挟んだ反対側の壁一面に並んで嵌め込まれた個別の小さい水槽を順番に見て回った。
お馴染みのカラフルな魚たちの写真を撮りながら進んで行くと、次の【海月ゾーン】が見えてきた。
「見て、これさっきの〈パープルリーフロブスター〉なんだけど」
「すごい綺麗に撮れてる‼︎これ欲しいな…」
「さっきのペンギンのもだよね?」
「うん、あれすっごく良い顔してた」
「……じゃあ、撮ったやつ後で全部まとめて送るね」
「あ、うん」
不測の事態が起きた時の為に…と交換し合った連絡先は、まだ一度も使われていない。
やったやった…これでやっとやり取りができる。
「…三角さんの撮った動画も送って?」
「うん、後で送るね」
自然に言葉を交わし合いながら、【海月ゾーン】に入って行く。
青く揺蕩う世界の中をゆっくりと漂う海月たち。
良いなぁ…と思う。
「あ、あれは口腕だね…」
そう呟いた小花くんの顔を見上げると、彼の瞳はちぎれた海月の一部を追いかけていた。
ライトアップされた幻想的な筒状の水槽の中を泳いでいるのは〈ミズクラゲ〉だ。
海月の触手は切断されても再生する。この〈ミズクラゲ〉は、触手だけではなく口腕でさえも再生する。
良いなぁ…と思う。
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