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広美が高校1年生の時の話し。
10月に行われる文化祭で、広美のクラスは喫茶店を出す事になった。
文化祭の数日前、日没までその準備に追われた広美は、下校時刻が夜9時を過ぎた。
校舎の外は、すっかり夜闇だ。
通学は自転車だ。
前輪のライトを照射し、紺のセーラー服姿でペダルを漕ぐ。背中の中程まである長い髪が、夜風に靡いた。
道中、人けの無い踏切に差し掛かった。
去る4月、広美と同じ高校の2年生の女子生徒が、その踏切で飛び込み自殺を図った。
彼女は走って来た電車の前に飛び出した拍子に、間抜けにも素っ転び、線路に俯せに倒れ込んだ。
その際、レールの上に腰が乗った状態で、上半身は線路の外側の道床の方へ、下半身は線路の内側の枕木の方に横たわった。
電車が通過した後、彼女の上下半身は、腰を中心に真っ二つに轢断された。
線路の外側に出ていた上半身は綺麗に残ったが、線路の内側に入っていた下半身は、電車の車輪に巻き込まれズタズタに寸断された。
以来、この踏切では夜になると、下半身を失った彼女が、上半身だけの姿の怪異となって出没するという。
いわゆる『テケテケ』である。
実際、部活動や補習などで、夜遅くに下校した女子生徒達が、複数の目撃談を語っている。
男子生徒で見た者はおらず、どうやら女子生徒のみを狙って現れるらしい。
広美はその噂を耳にする度に、何かの見間違いか、作り話しだろうと思っていた。
しかし、踏切を渡り掛けた広美が、ふと背後に悪寒を感じて振り返ると……。
紺のセーラー服を着た、上半身だけの女が、地面に這いつくばっていた。
出た! テケテケだ!
「キャーー!」
広美は悲鳴を上げて、自転車を立ち漕ぎし、全速力で踏切を越えて逃走した。
だがテケテケは、両腕だけで物凄い速さで地面を疾駆し、踏切から僅か十数㍍で広美の自転車に追い付き、飛び掛かった。
テケテケに襲撃された広美は、自転車ごと転倒し後頭部を痛打した。脳震盪を起こした広美は、意識が朦朧としグッタリと仰臥した。
テケテケは虚脱した広美のセーラー服の襟を右手で掴み、左手で地面を這って、線路の方へ引き摺って行く。
「ピッタリだ。お前、ピッタリだ」
とテケテケは嬉しげに呟く。つまり、広美の腹囲と、テケテケの腹囲の断面が、ピタリと完全に一致するのだ。
今まで女子生徒の前だけに出没したのは、自分と腹囲が適合する者を物色していたからだ。広美はそれに当て嵌まったので、目撃しただけの他の女子生徒とは違い襲われたのだ。
踏切の警報器が鳴り出し、遮断機が降りた。
もうすぐ線路を通る電車に、自分とは逆に、下半身が残る形で広美を轢断させ、その下半身を奪い取る。それがテケテケの魂胆なのだ。
ヤバい! と広美は霞んだ意識の中、命の危機を察した。
そしてテケテケに引き摺られながらも、咄嗟にセーラー服のスカートを、パンツごとずり下げた。
露わになったその股間を見たテケテケは、たちまち赤面し、
「キャーー!」
と黄色い悲鳴を上げて、広美を放って退散した。
実は、広美は男子だった。ロングの髪もウィッグだった。
広美のクラスの文化祭の出し物は、喫茶店は喫茶店でも、男女が制服を交替する、いわゆる男女逆転喫茶だった。
当日は衣装合わせがあり、セーラー服を試着した広美は、面白半分でその女装のまま下校していたのだった。
「僕は優顔で、体形も華奢で、セーラー服を着たら女子顔負けの美少女でした。その僕を本物の女子と勘違いして、テケテケは襲ったんです」
今は社会人の広美は、おかしげに笑って言った。
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