助手になりました

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「リグレット。私の祖母の家に移らないか?」  翌朝、出立前にニコラス様はおっしゃった。  ああ。私の悪事がばれたのね?  犯人は私しか考えられないもの。  むしろ何度もひっかかる、お坊ちゃまが不思議よ。  でもなんで「祖母の家」なのか? 「なぜです?」 「あんな物置に、リグレットを閉じ込めていたくない」  そっか。物置に見えるのか。  あの程度の部屋で満足する人間だから「おもちゃ」なのね。 「さあ。リグレット。一緒に行こう。後は任せて?」  今度はニコラス様の「おもちゃ」になるのかな。  平民の人生なんて、お貴族様になんの価値もない。  なにもかも、どうでもいい。 「カラスリーと申します。夫亡き後は、礼儀作法の教師(ガヴァネス)をしております。リグレットに、助手をお願いしたいのです」  喪服と白髪のせいか、落ち着いた品のある貴婦人。  私なんかに敬語で、逆に緊張する。 「かしこまりました」 「では、ドレスに着替えましょう。本日は王宮に参ります」  まずドレスで気分があがる。王宮は憧れ、さらにあがる。  全然違う!  ハイヒールと、重いドレスで働くのはキツイ!!  でも甘えは許されない。  尊敬される礼儀作法の先生の助手だから。  食事さえ気楽にとれず、毎日が緊張の連続──── 「私は平民ですけど?」  ついに私は、不満を漏らした。 「だから? 礼儀作法は貴族が気取るためではありません。思いやりと周りの方への配慮です。世界を広げるため、必要だから学ぶのです」 「……」 「演奏家が平民だからと手を抜きますか? 髪結いは?」  甘ったれた自分が恥ずかしくなる。  そして、私は「平民」を言い訳にするのをやめた。  少しでも成長し、先生の恥とならない助手になりたい。
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