求婚されました

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求婚されました

「明日から、領地に移り、家令から仕事を学んで欲しい」  半年過ぎ、だいぶ慣れた頃、ニコラス様がおっしゃった。 「申し訳ありません。先生の助手を続けさせてください」  元気に見えても、先生はお年。一人にしたくない。 「あら? ニコラス。リグレットに伝えてないのですか?」 「いや。えっと……」 「ニコラスはリグレットと家族になりたいのです」 「結婚はさすがに身分が」 「どうとでもなります。私もリグレットと家族になりたいのです。もちろん大切なのは、リグレットの気持ちですが」 「私もカラスリー先生のお側にいたいです! 不束者ですが」 「リグレットは優秀です。胸を張って、どこにでも出せます」  鼻の奥がツンとして、胸がいっぱいになる。  カラスリー先生に認めて頂けるなんて。  物置で生きた私は無知で、何度もダメだしされた。  立つだけでも、歩くだけでも、叱られた。  ありがたいけど、やっぱり辛くもあった。  何度も心が折れたからこそ、今とても心に染みる。 「お婆様。プロポーズを奪っちゃうのは、おかしくない?」 「あらやだ。私としたことが。さあ。ニコラス。どうぞ。烏から守られて以来、十年片思いしてたんだから」 「十年片思い!?」  驚く。確かに私は、幼い頃から烏は怖くない。  自由に飛べて羨ましいとは思っても。  けどニコラス様を守った記憶はない。  まともに話した記憶さえない。 「お婆様! 何で言っちゃうの?」 「あらやだ。ごめんなさい。まさか告白もまだ?」 「まいったな」  ニコラス様は片膝をつき、私の手をとる。 「結婚してください。リグレット」 「私は世間知らずで、性格が悪いですよ?」 「世間はこれから知ればいい。性格は悪いかな?」 「部屋に烏を放したのに?」 「あれはリグレットだったのか!?」 「お気づきでなかったのですか!?」 「寝間着姿に緊張して、それどころじゃなくて。いや。何言ってんだ。かっこよく決まらないな。リグレット。愛してる」 「私の何を?」 「かわいいとこも、優しいとこも、強いとこも、頑張り屋なとこも。烏を放すとこだって。大切にすると誓う。結婚してください」 「はい」  私の荒れた手が宝物みたいに、ニコラス様はキスする。 「リグレットの反応が、お婆様に負けた気がする……」  ニコラス様がぼやいたので、笑ってしまった。  それからニコラス様は、色々な所に連れて行ってくださるようになった。 「白髪だらけになっても、二人で色んな所に行こうね」 「ぜひ」  世界は広い。  私は、そんなことも知らなかった。 「本当に怒った烏から、私を守ったの覚えてない?」 「まったく」 「でも、覚えてなくてよかったかも。あの頃は泣き虫だったから」 「そうなんですか? 今はこんなに精悍ですのに」 「そりゃ成長するさ。だめだな。リグレットに褒められると舞い上がっちゃう」  それでも、本当の私は平民。しかも捨て子。  チクチクとした罪悪感がある。  私の見た目は貴族っぽい。礼儀作法を学んで特に。  その偽物感がさらに私を責める。 「本当に私で後悔しませんか?」 「リグレットじゃなきゃ嫌なんだ。もし貴族になるのが嫌なら、私が身分を捨てようか?」 「それはいけません! 先生が悲しみます」 「だったらそばにいて。必ずリグレットを守るから。私が最優先したいのはリグレットなんだ」
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