75人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうかしこまらずとも良い。……相変わらず眼光が鋭いな。ブルーノが怖がるでは無いか」
「そういう顔なので」
「だが」
「そういう顔なので」
「陛下、団長の表情が崩れるのは奥方の前だけッス」
「そうか。そうだな。……そのラリオノフ騎士団長の奥方についてなのだが、ブルーノが一度会いたいと言い出してだな」
「お断りしても?」
近衛騎士たちの表情が強張ったがどうでもいい。陛下も苦笑しつつ、手を上げて近衛騎士の動きを制した。
「それは困るな。なにせ滅多に我が儘を言わないブルーノが、公爵夫人に会いたいと言っているのだ」
「妻に?」
「なにこの子が欲しているのは母親ではなく、ツガイのほうだ」
「……?」
基本的に【運命のツガイ】となる相手が、複数人いることはまずない。となれば考えられるのは、妻の子、つまり私の──!?
「へ、陛下。まさか、妻が妊娠し、それも殿下のツガイになる可能性がある……と?」
「そのまさかだ。どうやら息子は今日不思議な夢を見たようで、【運命のツガイ】に近々出会えること、そしてその母と子──つまり妊婦が危険な目に遭う可能性があるのだとか」
「なっ……」
後頭部を強打されたような衝撃が走った。ナタリアと私の子に、危険が!?
ふと今朝の妻の言葉が脳裏によぎる。
『その……、私旦那様と同じくらいに大切な……人ができたので、その……だから、私が守らないといけないの。そのためにも旦那様とはお別れしたほうが、旦那様のためでもあると思うのです』
『つまり……私以外に好きな男ができたと?』
『まあ、まだどっちだか分からないわ!』
大切な人。てっきり異性だと思っていたが、私とナタリアの子供なら、私と同じくらい大切だと言われても納得できる。それに『まだどっちだか分からないわ』という発言。思い返せば、今日の妻はどこか様子がおかしかった。
ジークが言っていたとおり、妊娠してネガティブになっている? いやナタリアは私のためと言っていた。これは──。
最初のコメントを投稿しよう!