【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

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 小声で囁く旦那様に言い返す。少し照れて頬を赤くする旦那様が愛おしくて、ステップを踏みながら隙を見て頬にキスをする。ビックリしたのか目を丸くする旦那様も大好きだ。  でもちょっと調子に乗ってしまったせいで、その後ダンスを続けて二曲も踊ることになるとは思わなかった。  *** 「ふあぁ」  旦那様が用意してくださった控え室に着くなり、間抜けな声が出てしまった。淑女としてはしたないのだけれど、今日ばかりは許してほしい。旦那様はソファに私を座らせてくださって、飲み物や軽食を取ってくると部屋を出て行ってしまった。  か、過保護さが増したような?  一人の体じゃないって、妊娠に気づいている? バタバタしていたのと、ちょうど主治医が留守で診てもらうタイミングがなかったのよね。  それにしても、ダンスが終わったら人に囲まれて、ダンスよりも挨拶やダンスの申し込み、お茶会のお誘いを断るのに体力を消費したと思う。思えばお茶会を開いても少人数かつ、学院時代からの顔見知りのみだったのよね。それがいつの間にか紹介制だと思われたのか、幻の花茶会に参加したいとか……。幻の花茶会ってなにかしら?  私はあまり人前に出ず、でも編み物や刺繍、小物のデザインは好きだから実家の商会経由で仕事を手伝ったりするのだけれど、それが巷で人気とか聞いてないわ。お父様もお母様も今度会った時に聞いておかなくては……。今日確か来ているはず。  そう思っていた矢先、控室に国王陛下と第三王子ブルーノ王子、近衛騎士たちも押しかけるようにやって来たので、何事かと固まってしまう。 「こ、国王陛下。本日は──」 「ああ、今は時間が惜しいから、挨拶は不要だ。さて、ブルーノ」 「はい。ちちうえ」  国王陛下は抱っこしていたブルーノ王子をそっと下ろした。まだ四歳になったばかりなのに、凜としていてきっと将来は素敵な殿方になるだろう。正装もしっかり着こなしていて、ただ気になったのは両手に抱える灰褐色の毛玉だ。なんというか王子とは不釣り合いなものに見える。
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