【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

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 1.  いつものように旦那様が帰ってきたので、部屋で待っていられず慌てて玄関へと向かった。今日は嬉しい報告があるのだ。  家族が増える。  結婚して一年目の記念日前日。嬉しいことが重なって、私は浮かれていた。だから玄関正面の階段を上がってきた旦那様のただならぬ雰囲気に、気づくのが遅れてしまったのだ。 「旦那様、お帰りなさいませ」  いつものように旦那様に抱きつくのは、おなかの子供にもよくないと思い、十分に近づいてそっとお帰りのギュッとキスをしよう。 「ただいま、私の可愛い奥さん」と抱きしめてくれると思っていた。  艶のある美しい黒髪は腰まであり、目鼻立ちが整った顔立ちは凜として素敵だし、猛禽類のような金色の瞳だってとっても知的でしびれてしまう。元々は大鷲族で興奮すると背中から翼を出してしまうのだけれど、その羽根はとても軽くて柔らかい。  漆黒騎士団団長で、目で殺すことができるほど恐れられているらしいのだけれど、私の前だといつもにこにこで抱きしめてくれる。愛しの旦那様。最近では目付きが悪くならないようにと黒縁眼鏡をしているお洒落さん。 「嘘だ、君は本当にナタリアなのか?」 「旦那様? はい、ナタリアですわ」  よく見れば顔が真っ青で、唇も紫色だわ。体が冷えてしまっているのか額から玉のような汗が噴き出している。  なんだか不思議な匂いがするわ。何かしら、アルコール? 甘い香り。 「──っ、ありえない。君が私の【運命のツガイ】でないなど──」 「お加減が悪いのですか?」  そう思っていつものように、頬に手を伸ばそうとした。 「触れるなっ! ──あ」 「──っ」  旦那様にとっては軽く手を振り払っただけだったのでしょう。でも、ただの人間である私にとっては体が軽く吹き飛ぶほどの力だった。もっとも私が小柄で女性だからというのもあったのだろう。 「ナタリア!」 「だんな──」  そして場所も良くなかった。  階段の上で話していたため、吹き飛ばされたのは階段の下──。旦那様もすぐに私が階段から落ちるのが視界に入ったのだろう。
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