【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

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 ふわふわの羽根を愛でて、キスを繰り返すと少しだけ元気になったようだ。弱々しい羽根を広げて、好きだとアピールしている。どんな姿になっても旦那様は、旦那様だと思うと胸がホッコリと温かくなった。でも感動的な再会の後は、必ずしもハッピーエンドにはならないらしい。灰褐色の雀の羽根がボロボロと落ちていく。 「──っ」 「ちゅん、ちゅんん」 「ダメ。そんなこと言わないで。いなくならないでください」 「ちゅん」  旦那様は震える羽根で私の涙を拭ってくれた。頬にすり寄って、キスも。でも私の両手から飛び去ってしまう。その足指が崩れかけているが見えた。 「旦那様! イグナート様! 待って! ダメ!」  そう呼んだと同時に正装姿の旦那様が、部屋に戻ってきた。両手には料理と飲み物を持っている。 「イグナート様!」 「ナタリア? 少し遅くなってしま……──っ!?」  灰褐色の雀は旦那様の中に飛び込み消えてしまう。慌てて旦那様に駆け寄ろうとしたけれど、一歩前に出た旦那様が私を抱きしめる。  両手に抱えていた料理と飲み物は、後ろから部屋に入ってきたボリスが見事にキャッチしていた。  旦那様がぎゅうぎゅうに私を抱きしめて離さない。胸板に押しつけられて少し痛いけれど、背中に手を回して少し震えている。ばさああ、と羽根が背中から生えて、羽根が部屋に舞った。翼は私ごと隠すように、守るように、包み込む。 「旦那様」 「ナタリア、ナタリア……なぜだかわからないのだけれど、無性に君を抱きしめて、しまって……でもすまない。しばらく、私が落ち着くまで何も言わずに、このままでも良いだろうか」 「──っ」 「ナタリア?」 「──っ、はい。もちろんですわ。大好きです。……もう、どこにも逝かないでください。私もどこにも逝きませんから」 「ああ」  どうして未来の旦那様が過去にいるのか。国王陛下とブルーノ王子はどこまで知っているのか、どうやって時を逆行させたのか。疑問ばかりが募るけれど、未来の旦那様が今の旦那様の中に戻って、独りぼっちのまま消えないで良かった。  ***
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