【短編】大好きな旦那様の【運命のツガイ】が、私ではなかったとしたら?

7/27
前へ
/27ページ
次へ
 初手で失敗するなんて商人の娘失格だわ。やっぱり朝はしっかり食べないと頭は回っているようでもダメみたい。そういえば昔、お父様とお母様にも朝はしっかり食べてから商談に行きなさいって、口にパンを突っ込まれていたわ。  あれって私のことを思って──もあるのでしょうけれど、私が朝食抜きだとポンコツだって知っていたのね。 「あの……旦那様ぁ」 「ナタリア、私は君と離縁するつもりはない。絶対に。話はこれで終わりだ」 「ま、待ってください」 「仕事がある。……ボリス、屋敷には誰も入れるな。ナタリアもしばらく外出は禁止だ」 「旦那様!」  話を打ち切られてしまう。紙ナプキンで唇を拭いた旦那様は、さっさと席を立ってしまった。大失敗。何も食べていないせいか、立ち上がろうとして途端に軽いめまいに襲われる。  椅子に座り直して「どう挽回すれば」と思考を巡らせようとするも、上手くいかない。 「ナタリア」 「え?」  顔を上げると旦那様が目の前にいて、片膝をついて跪く。 「私に何か不満があるのなら直すし、努力もする。私のツガイはナタリアだけだ」 「旦那様……っ、私も旦那様が大好きですわ。すごく、すごく好きで毎日が幸せ……でも……」  ああ、本当にお腹が鳴って思考が鈍ってしまう。どうしてか、うまく言葉にできなくて涙がポロポロとこぼれ落ちる。 「(ああ、私の馬鹿ぁあああ)……旦那様ぁ、ごめんなさい。私……っ」 「ああ、泣かないでくれ。私の愛しい人。君に泣かれてしまったら、困ってしまう」 「申し訳っ……」 「旦那様、お仕事の時間です。……奥様も少し戸惑っておられますし、朝食もまだなのですから今日の夜に改めてお話をするのはいかがでしょう?」  ボリスの気の利いた言葉で、その場は解散となった。私は朝食をしっかりと食べて、夜の話し合いのために今度こと考えをまとめないと──。  そう思っていたのに体がだるくて気づけば、うたた寝してしまった。  3.イグナートの視点  妻が可愛い。妻が超絶可愛い。妻が可愛いいいいい。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加