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結婚したらより可愛くて、愛らしくて、愛おしくて困ってしまう。明るいオレンジ色のふわふわの髪に、琥珀色の瞳、愛くるしい顔はいつも表情がめまぐるしくて、その一つ一つが愛おしくて堪らない。
結婚するまで、いや【運命のツガイ】であるナタリアと出会うまで、人族など無価値な存在だと認識していた。脆弱で短命、臆病で、嘘つきで、狡猾。そのイメージをまるごと払拭したのは、ナタリアだ。
【運命のツガイ】なんて信じていなかったし、どうでも良かった。そもそも眼光が鋭すぎて、異性とまともに目を合わせることが困難だったのに、妻は嬉しそうに微笑み返すのだから、【運命のツガイ】以前に、その言動だけで惚れない訳がないだろう。それなのに今日の朝、唐突に離縁したいと言い出した。
どうして? 昨日まではあんなに……。
騎士団施設に足を踏み入れつつ、ため息が漏れた。
「…………正直に言って死にそうだ」
「え、団長。不治の病にでもなったッスか?」
「違う。……妻が急に、私のためにも離縁した方がいいと言い出してだな」
副団長のジークは兎族でトレードマークの垂れ耳に、クリーム色の髪、糸目の青年だ。好青年で私と違い、周りとのコミュニケーション能力が高い。
そんな彼に珍しく愚痴を吐いたのだが、妙に神妙な顔をしている。
「珍しいッスね。団長を好きになる奇特な女性なんて今後現れないですし、どう見ても団長ラブな奥方だったのに……」
「お前は貶したいのか、慰めているのか、フォローしているのかどっちなんだ」
「事実を述べたまでッス」
「団長。本日も竜族のヴィルヘルミナ嬢がお会いしたいと、連絡が入ったのですが……」
騎士の一人が入り口から駆け寄ってきた。
「私は既婚者だと何度言えば……会う気はない。仕事の邪魔だ、追い返せ」
「ハッ! 承知しました」
「……」
はあ、まったく仕事で夜盗から助けて以降、何かとかの令嬢が会いに来ようとする。妻帯者だというのに、何考えているのやら。
「団長、もしかして奥方の耳に、竜族のご令嬢が押しかけているって噂が聞こえてきたんじゃないッスか?」
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