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「コンビニで弁当買ってきたから昼はこれでいいよな」
「うん。帰るのは夕方のはずじゃなかったの?」
「早く終わったんだ。えーと、レンジで三分と」
何かが違う。
私が求めていたのはこんな同棲関係じゃない。
さっきは頭に手を置かれて子供扱いされるし、テーブルにお弁当を置くと「熱いから気をつけろよ」なんてまた子供扱い。
優悟先生にとって私は、子供のままってことなんだと思ったら意地でも意識させたくなった。
入学式まで間、突然抱きついてみたり「好き」なんて恥ずかしい言葉まで言ったのに「ありがとなー」なんて軽く捉えられる。
それを毎日繰り返していたら「離れろー」と拒絶され始め、好きの言葉なんて無反応。
それでも日にちは過ぎていき、無事高校デビューを迎えた。
担任が優悟先生だって知ったときは嬉しさのあまり教室で抱きつきそうになったけど、高校デビュー前に約束した事を思い出し気持ちを押さえ込んだ。
生徒達に変な噂や誤解を与えないため、私と優悟先生に関する全てを秘密にすること。
学校では、生徒と教師の関係を守ること。
そして冒頭に戻るわけだが、なんの進展もないまま高校デビューから二ヶ月が経過。
学校ではアプローチ出来ないし、家だけでは距離がなかなか近づかない。
帰りも遅かったり、早く帰ってきたとしても仕事を家に持ち帰って自室で作業。
休みも殆どないから距離を縮めたくても一緒にいられる時間が少なすぎる。
優悟先生が教師だから学校では一緒にいられるわけだけど、何のアプローチも出来ないんじゃ進展しようがない。
教師って思っていた以上に大変な仕事だってことはわかったけど、このままだと三年間何事もなく私は実家に帰ることになるだけ。
こうなったら、アプローチをもっと大胆にしていくしかない。
お家は勿論、学校でも。
約束した事を破らなければ問題ないんだから、やりようはある。
「でだ、柚子。お前は一体何がしたいんだ」
現在、放課後の生徒指導室。
何故こんな状況かというと、校則に違反したネイルをしてきたから。
優悟先生にとっては仕事が増えただけで迷惑なことは理解してる。
それでも、私をひとりの異性として意識させたい。
私は椅子から立ち上がり、対面で座る優悟先生へと近づく。
どうしたらいいかなんてわからない。
困らせることになったとしても、少しでも私の存在を意識してほしくて、椅子に座ったまま私を見上げる優悟先生の唇にそっと顔を近づける。
ほんの少し触れた唇の感触を思い出し、私の顔は熱を持つ。
優悟先生を見る余裕もなく、ただ「ごめんなさい」と言葉を溢して生徒指導室を飛び出す。
よくわからない涙が溢れ出し、家へと帰った私は自室のベッドに倒れ込む。
顔の熱も鼓動の騒がしさも落ち着かない。
苦しくて辛くて悲しくて、感情がぐちゃぐちゃで涙が溢れて止まらない。
好きなのに、迷惑をかけたいわけじゃないのに、少しでも意識してくれたらって考えてしまった。
今日は帰りが遅くなるって言っていたから顔を合わさずに済むけど、明日学校で顔を合わせることは避けられない。
もし追い出されたら、嫌われたら。
そんな考えがぐるぐると頭の中を巡っていたとき、玄関が開く音が聞こえ顔を上げる。
すると、私の部屋の扉が開かれ優悟先生が部屋の中へズカズカと入ってきて私に近づいてくる。
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