約束の場所

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約束の場所

 私は、担任の優悟(ゆうご)先生に恋してる。  普段この気持ちは心の中にそっとしまっているのだけど、開放するときが唯一あるのがお家。  夕食の準備をしてエプロンを外していると、ガチャっと玄関の開く音。  まっしぐらに走り出し飛びつくように抱きつけば、引き剥がされそうになり更に力を強める。  ぐいぐい押し退けようとするのが無駄と思ったのか、頭上からは溜息。 「お前、学校では絶対にやめろよ」 「わかってるよ。だから家だけでも充電ー」  玄関で一方的に抱きついて数分経過。  流石に我慢の限界が来たらしい。  両肩を掴まれぐいっと引き剥がされたので、残念だけど充電タイムはここで終了。  用意していた夕食をテーブルに並べ、向かい合うようにして椅子に座ると冷めないうちに食事タイム。  目の前で、私が作った料理を食べる優悟先生の姿にニヤけていれば「気持ち悪い。さっさと食え」なんて冷たいお言葉が。  私にとっては優悟先生が食事みたいなものなんだけど、なんて前に言ったらドン引かれた。  こんな幸せな時間が三年間も続くのかと思うと死んでもいい。  いや、優悟先生と結婚して幸せな家庭を築かなければいけないから死なないけど。  夕食を済ませた後は、私が後片付けをしている間に先生にはお風呂に入ってもらい、その後、私がお風呂へというのがいつもの流れ。  もうすでに新婚さんという状況じゃないかと思いもしたが、あくまで私と先生は生徒と教師。  そもそも何故、生徒である私と先生が一緒に暮らしているのかというと、それは中学一年生の頃に遡る。  家族で食事をしていたとき、お母さんが突然甥の話をしだした。  その甥というのが優悟先生。  今年から高校教師になったという内容で、私は箸を止めて身を乗り出す。 「その高校、私も行きたい」 「行きたいって、柚子(ゆず)はまだ中学生になったばかりなんだから、進路はゆっくり考えなさい」  なんて当然の答えがお母さんから返ってきたわけだけど、私の決心が揺らぐことはなかった。  中学生活を勉強に捧げたおかげでそこの高校受験に合格。  こうなってしまうと両親も認めるほかなく了承してくれた。 「高校はここから通えない距離だけど、独り暮らしをするつもり? 中学を卒業したばかりで独り暮らしなんて心配ね」 「うん、それは私も考えたんだけど——」  両親が不安になるのは計算済み。  ということで私がお母さんに頼んだのは、優悟先生の家に住まわせてもらえないかという内容。  本当は独り暮らしでも平気なんだけど、両親の不安を利用しない手はない。  思った通りお母さんが優悟先生に聞いてくれることになり、結果、優悟先生の許可を得ることができた。  もし断られたとしても、学校で先生に会える確率が変わる訳ではないから問題はなかったんだけど、許可を貰えるなんてついてる。
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