1人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、走り続けるロールスロイスの中で、そんなことを、考え続けた…
考え続けたのだ…
そして、なにげに、アムンゼンを見た…
アラブの至宝を見た…
が、
全然、嬉しそうでは、ない…
ファンだと、公言したリンといっしょにいるにも、かかわらず、全然嬉しそうではない…
すると、やはり、このアムンゼンが、リンのファンだというのは、ウソか?
あるいは、ブラフ…
ブラフ=ハッタリか?
と、思った…
やはり、なんらかの意図が、あって、このアムンゼンは、自分は、リンのファンだと、公言しているに、過ぎないのか?
と、思った…
思ったのだ…
だから、私は、アムンゼンに、
「…オマエ、嬉しそうにないな…」
と、言ってやった…
わざと、小声で、言ってやった…
すると、アムンゼンが、言いにくそうに、
「…いえ、今は、チアガールの格好をしていないから…」
と、小声で、言った…
「…なんだと?…」
「…昔のAKBと、いっしょですよ…同じメンバーが、踊っても、あのAKBの衣装を着て、踊っているから、ファンも、喜ぶんで、あって、矢田さんのように、Tシャツと、ジーンズ姿で、踊っても、ファンは、誰も、喜びませんよ…」
アムンゼンが、言う…
アムンゼンが、説明する…
そう言われると、私も納得した…
実に、納得した…
今、ここにいる、リンは、分厚い黒縁のメガネをかけ、いかにも、オタクの雰囲気…
昨日、会ったときの派手さは、微塵もない…
もはや、別人レベルだ(爆笑)…
ここにいるのが、昨日会ったリンと別人だと、言われても、おかしくはない…
そして、そんな姿のリンを会っても、このアムンゼンも、嬉しくないだろうと、思った…
思ったのだ…
やはり、チアガールのリンは、チアガールの姿をしているから、いいので、あって、普段着では、言葉は悪いが、輝かない…
周囲に埋没してしまう…
それは、例えば、背が高く、スタイルが、抜群の女が、ビキニを着て、ミス日本のコンクールなどに、出場するから、カッコよく、輝いて見えるので、あって、普段、街で、歩いている姿を見れば、特別、いい女に見えないのと、似ている…
街で、出会ったときに、最初に、考えるのは、誰もが、顔だからだ…
スタイル=カラダでは、ないからだ…
だから、言葉は、悪いが、ビキニ姿で、いるから、カッコいいのであって、普段着の姿では、周囲に、埋没してしまう…
ウリは、顔では、なく、スタイルだからだ…
だから、ビキニを着なければ、周囲に埋没してしまう…
そういうことだ…
そして、それは、このリンも同じ…
同じだ…
はつらつと、健康的なチアガールの姿で、踊るから、輝く…
周囲から、注目を浴びる…
が、
今のオタクの姿からは、チアガールの姿は、想像できん…
想像できんほどの別人だ(笑)…
だから、アムンゼンに、そう言われれば、この矢田も納得するしか、なかった…
なかったのだ…
そして、そんなことを、私とアムンゼンが、話していると、当然ながら、その話が、リンにも、聞こえたらしい…
アムンゼンを見て、
「…坊や…私のファンなの?…」
と、嬉しそうに、聞く…
「…ハイ…ファンです…」
アムンゼンが、即答した…
即答=すぐに、言った…
そして、顔を赤らめた…
やはり、リンに直接、聞かれて、嬉しかったに違いない…
「…嬉しい…」
リンが、答える…
「…ボクもです…」
と、アムンゼン…
「…でも、ごめんなさい…今日は、チアガールの格好じゃなくて…」
「…いえ、とんでも、ありません…」
「…でも、坊やの言うことは、わかる…」
「…なにが、わかるんですか?…」
「…坊やが、チアガールの姿をしたリンが、好きだということ…」
「…」
「…たしかに、映像を見ると、自分でも、ビックリするくらい、生き生きと、している…あの姿を見て、今の私を見ても、全然、嬉しくない、坊やの気持ちも、よくわかる…」
「…」
「…坊やの前で、チアガールの姿を見せることができなくて、ごめんなさいね…」
「…いえ、とんでも、ありません…」
アムンゼンが、嬉しそうに、返す…
「…そのお気持ちだけで、十分です…」
思わず、見ている私が、笑い出しかねない対応だった…
いや、
私だけでは、ない…
私以外のここにいる全員、バニラも葉敬も、思わず、吹き出しかねない対応だった…
リンと、アムンゼンのやり取りを、見た、葉敬が、
「…アムンゼン君は、リンさんが、ホントに好きなんだね…」
と、口を挟んだ…
すると、アムンゼンは、
「…」
と、なにも、言わんかった…
ただ、顔を真っ赤にして、
「…」
と、黙り込んだ…
が、
この事態に、ただひとり、怒り出した人間が、いた…
マリアだ…
葉敬とバニラの娘のマリアだ…
「…バッカじゃない!…」
と、突然、怒り出した…
「…アムンゼン…アンタ、なにをデレデレしているのよ!…」
と、突然、怒り出した…
が、
それを、見た、葉敬が、
「…アムンゼン君…キミを好きな女の前で、別の女にデレデレしちゃ、ダメだよ…」
と、笑いながら、忠告した…
「…それは、男としては、しちゃ、いけない行為だ…」
と、言って、笑った…
3歳のマリアが、アムンゼンに嫉妬したのが、愉快で、たまらない様子だった…
まだ、幼いマリアが、アムンゼンに嫉妬するのが、実に、楽しそうだった…
これは、私の目から、見ても、当たり前…
当たり前だった…
3歳の子供同士のやきもちや、嫉妬は、傍から見れば、可愛らしく、微笑ましいものだからだ…
しかしながら、アムンゼンは、ホントは、30歳…
小人症だから、大人になれない…
だから、3歳の外見のまま…
それを、考えると、複雑…
実に、複雑だった…
そして、私が、そんなことを、考えていると、リンが、まじまじと、アムンゼンを見ているのが、わかった…
当然、アムンゼンも、またリンの視線に気付いた…
「…なにか、ボクの顔についていますか?…」
と、アムンゼンが、聞く。
当たり前だった…
「…いえ、坊やは、肌が、浅黒いから、こんなことを、言っては、なんだけれども、アラブの方?…」
「…実家は、サウジアラビアです…」
「…サウジアラビア?…」
リンが、驚く…
続けて、
「…サウジアラビアか、どこかに、アラブの至宝と呼ばれるひとが、アラブ世界で、いると言われているけれど、坊やは、知っている?…」
と、聞いた…
あろうことか、アラブの至宝本人に、聞いたのだ…
私は、アムンゼンが、どういう反応を見せるのか?
興味津々だった…
なにしろ、当人だ…
どう、答えるか?
興味津々だったのだ…
が、
アムンゼンは、
「…アラブの至宝? なんですか? それは?…」
と、返した…
「…そんな難しいことを、聞かれても、子供のボクには、わかりません…」
「…そうよね…」
リンは、一瞬、沈黙した後、そう、答えた…
「…坊やに聞いても、わかるわけが、ないわよね…」
「…そうですよ…そんな難しいことは、大人に聞いて下さい…」
「…」
「…で、そのアラブの至宝というひとが、どうかしたんですか?…」
「…それは、坊やに話しても…」
リンが、口ごもる…
当たり前だった…
このアムンゼンは、ホントは、30歳だが、誰が見ても、3歳にしか、見えない…
3歳の子供に、難しいことを、言っても、わかるわけがないからだ…
だから、これは、ある意味、名探偵コナンと同じ…
高校生探偵の工藤新一が、小学一年生の江戸川コナンになったのと、同じ…
同じだ…
ただ、江戸川コナンは、薬の力で、高校生が、小学一年生になったが、このアムンゼンの場合は、生まれつき…
小人症だから、生まれつき、カラダが、小さいまま…
カラダが、大きくなれない…
そこが、違うところだ…
ただし、子供のフリをして、周囲の人間と接するのは、同じ…
子供だから、周囲の大人が、油断して、つい、ポロっと、言っては、いけないことを言ってしまう…
話しては、いけない話をしてしまう…
それは、同じ…
同じだ…
だから、もしかしたら、このリンもまた、アラブの至宝の話をしたのかも、しれない…
子供相手だから、つい、油断して、アラブの至宝の話をしたのかも、しれない…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、
「…リンさん…アラブの至宝に、なにか、頼みたいことでも、あるんですか?…」
と、聞いた…
当たり前だった…
「…それは、坊やに言っても…」
リンが、口ごもる…
それを、見たアムンゼンが、
「…アラブの至宝が、なんだか、ボクには、わかりませんが、頼みたいことがあるのなら、ここで、話してみるのも、いいかも、しれませんよ…」
と、言った…
「…でも、坊やに話しても…」
「…それは、ボクに話しても、なにもできませんが、今、リンさんが、話した内容を、ここにいる誰かが、聞いて、他の誰かに話したりしたら、解決できるかも、しれませんよ…」
「…」
「…風が吹けば桶屋が儲かるという、日本のことわざでは、ありませんが、思いもかけないことが、起こるかも、しれません…」
アラブの至宝が、リンを説得した…
<続く>
最初のコメントを投稿しよう!