アラブの至宝 13

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  私は、走り続けるロールスロイスの中で、そんなことを、考え続けた…  考え続けたのだ…  そして、なにげに、アムンゼンを見た…  アラブの至宝を見た…  が、  全然、嬉しそうでは、ない…  ファンだと、公言したリンといっしょにいるにも、かかわらず、全然嬉しそうではない…  すると、やはり、このアムンゼンが、リンのファンだというのは、ウソか?  あるいは、ブラフ…  ブラフ=ハッタリか?  と、思った…  やはり、なんらかの意図が、あって、このアムンゼンは、自分は、リンのファンだと、公言しているに、過ぎないのか?  と、思った…  思ったのだ…  だから、私は、アムンゼンに、  「…オマエ、嬉しそうにないな…」  と、言ってやった…  わざと、小声で、言ってやった…  すると、アムンゼンが、言いにくそうに、  「…いえ、今は、チアガールの格好をしていないから…」  と、小声で、言った…  「…なんだと?…」  「…昔のAKBと、いっしょですよ…同じメンバーが、踊っても、あのAKBの衣装を着て、踊っているから、ファンも、喜ぶんで、あって、矢田さんのように、Tシャツと、ジーンズ姿で、踊っても、ファンは、誰も、喜びませんよ…」  アムンゼンが、言う…  アムンゼンが、説明する…  そう言われると、私も納得した…  実に、納得した…  今、ここにいる、リンは、分厚い黒縁のメガネをかけ、いかにも、オタクの雰囲気…  昨日、会ったときの派手さは、微塵もない…  もはや、別人レベルだ(爆笑)…  ここにいるのが、昨日会ったリンと別人だと、言われても、おかしくはない…  そして、そんな姿のリンを会っても、このアムンゼンも、嬉しくないだろうと、思った…  思ったのだ…  やはり、チアガールのリンは、チアガールの姿をしているから、いいので、あって、普段着では、言葉は悪いが、輝かない…  周囲に埋没してしまう…  それは、例えば、背が高く、スタイルが、抜群の女が、ビキニを着て、ミス日本のコンクールなどに、出場するから、カッコよく、輝いて見えるので、あって、普段、街で、歩いている姿を見れば、特別、いい女に見えないのと、似ている…  街で、出会ったときに、最初に、考えるのは、誰もが、顔だからだ…  スタイル=カラダでは、ないからだ…  だから、言葉は、悪いが、ビキニ姿で、いるから、カッコいいのであって、普段着の姿では、周囲に、埋没してしまう…  ウリは、顔では、なく、スタイルだからだ…  だから、ビキニを着なければ、周囲に埋没してしまう…  そういうことだ…  そして、それは、このリンも同じ…  同じだ…  はつらつと、健康的なチアガールの姿で、踊るから、輝く…  周囲から、注目を浴びる…  が、  今のオタクの姿からは、チアガールの姿は、想像できん…  想像できんほどの別人だ(笑)…  だから、アムンゼンに、そう言われれば、この矢田も納得するしか、なかった…  なかったのだ…  そして、そんなことを、私とアムンゼンが、話していると、当然ながら、その話が、リンにも、聞こえたらしい…  アムンゼンを見て、  「…坊や…私のファンなの?…」  と、嬉しそうに、聞く…  「…ハイ…ファンです…」  アムンゼンが、即答した…  即答=すぐに、言った…  そして、顔を赤らめた…  やはり、リンに直接、聞かれて、嬉しかったに違いない…  「…嬉しい…」  リンが、答える…  「…ボクもです…」  と、アムンゼン…  「…でも、ごめんなさい…今日は、チアガールの格好じゃなくて…」  「…いえ、とんでも、ありません…」  「…でも、坊やの言うことは、わかる…」  「…なにが、わかるんですか?…」  「…坊やが、チアガールの姿をしたリンが、好きだということ…」  「…」  「…たしかに、映像を見ると、自分でも、ビックリするくらい、生き生きと、している…あの姿を見て、今の私を見ても、全然、嬉しくない、坊やの気持ちも、よくわかる…」  「…」  「…坊やの前で、チアガールの姿を見せることができなくて、ごめんなさいね…」  「…いえ、とんでも、ありません…」  アムンゼンが、嬉しそうに、返す…  「…そのお気持ちだけで、十分です…」  思わず、見ている私が、笑い出しかねない対応だった…  いや、  私だけでは、ない…  私以外のここにいる全員、バニラも葉敬も、思わず、吹き出しかねない対応だった…  リンと、アムンゼンのやり取りを、見た、葉敬が、  「…アムンゼン君は、リンさんが、ホントに好きなんだね…」  と、口を挟んだ…  すると、アムンゼンは、  「…」  と、なにも、言わんかった…  ただ、顔を真っ赤にして、  「…」  と、黙り込んだ…  が、  この事態に、ただひとり、怒り出した人間が、いた…  マリアだ…  葉敬とバニラの娘のマリアだ…  「…バッカじゃない!…」  と、突然、怒り出した…  「…アムンゼン…アンタ、なにをデレデレしているのよ!…」  と、突然、怒り出した…  が、  それを、見た、葉敬が、  「…アムンゼン君…キミを好きな女の前で、別の女にデレデレしちゃ、ダメだよ…」  と、笑いながら、忠告した…  「…それは、男としては、しちゃ、いけない行為だ…」  と、言って、笑った…  3歳のマリアが、アムンゼンに嫉妬したのが、愉快で、たまらない様子だった…  まだ、幼いマリアが、アムンゼンに嫉妬するのが、実に、楽しそうだった…  これは、私の目から、見ても、当たり前…  当たり前だった…  3歳の子供同士のやきもちや、嫉妬は、傍から見れば、可愛らしく、微笑ましいものだからだ…  しかしながら、アムンゼンは、ホントは、30歳…  小人症だから、大人になれない…  だから、3歳の外見のまま…  それを、考えると、複雑…  実に、複雑だった…  そして、私が、そんなことを、考えていると、リンが、まじまじと、アムンゼンを見ているのが、わかった…  当然、アムンゼンも、またリンの視線に気付いた…  「…なにか、ボクの顔についていますか?…」  と、アムンゼンが、聞く。  当たり前だった…  「…いえ、坊やは、肌が、浅黒いから、こんなことを、言っては、なんだけれども、アラブの方?…」  「…実家は、サウジアラビアです…」  「…サウジアラビア?…」  リンが、驚く…  続けて、  「…サウジアラビアか、どこかに、アラブの至宝と呼ばれるひとが、アラブ世界で、いると言われているけれど、坊やは、知っている?…」  と、聞いた…  あろうことか、アラブの至宝本人に、聞いたのだ…  私は、アムンゼンが、どういう反応を見せるのか?  興味津々だった…  なにしろ、当人だ…  どう、答えるか?   興味津々だったのだ…  が、  アムンゼンは、  「…アラブの至宝? なんですか? それは?…」  と、返した…  「…そんな難しいことを、聞かれても、子供のボクには、わかりません…」  「…そうよね…」  リンは、一瞬、沈黙した後、そう、答えた…  「…坊やに聞いても、わかるわけが、ないわよね…」  「…そうですよ…そんな難しいことは、大人に聞いて下さい…」  「…」  「…で、そのアラブの至宝というひとが、どうかしたんですか?…」  「…それは、坊やに話しても…」  リンが、口ごもる…  当たり前だった…  このアムンゼンは、ホントは、30歳だが、誰が見ても、3歳にしか、見えない…  3歳の子供に、難しいことを、言っても、わかるわけがないからだ…  だから、これは、ある意味、名探偵コナンと同じ…  高校生探偵の工藤新一が、小学一年生の江戸川コナンになったのと、同じ…  同じだ…  ただ、江戸川コナンは、薬の力で、高校生が、小学一年生になったが、このアムンゼンの場合は、生まれつき…  小人症だから、生まれつき、カラダが、小さいまま… カラダが、大きくなれない…  そこが、違うところだ…  ただし、子供のフリをして、周囲の人間と接するのは、同じ…  子供だから、周囲の大人が、油断して、つい、ポロっと、言っては、いけないことを言ってしまう…  話しては、いけない話をしてしまう…  それは、同じ…  同じだ…  だから、もしかしたら、このリンもまた、アラブの至宝の話をしたのかも、しれない…  子供相手だから、つい、油断して、アラブの至宝の話をしたのかも、しれない…  私は、そう、見た…  私は、そう、睨んだ…  そして、私が、そんなことを、考えていると、アムンゼンが、  「…リンさん…アラブの至宝に、なにか、頼みたいことでも、あるんですか?…」  と、聞いた…  当たり前だった…  「…それは、坊やに言っても…」  リンが、口ごもる…  それを、見たアムンゼンが、  「…アラブの至宝が、なんだか、ボクには、わかりませんが、頼みたいことがあるのなら、ここで、話してみるのも、いいかも、しれませんよ…」  と、言った…  「…でも、坊やに話しても…」  「…それは、ボクに話しても、なにもできませんが、今、リンさんが、話した内容を、ここにいる誰かが、聞いて、他の誰かに話したりしたら、解決できるかも、しれませんよ…」  「…」  「…風が吹けば桶屋が儲かるという、日本のことわざでは、ありませんが、思いもかけないことが、起こるかも、しれません…」  アラブの至宝が、リンを説得した…                <続く>
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