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 懐かしい景色だった。ここは彼と別れる前、最後に彼と話した場所だ。あれから十年。あの日、私は彼と約束したのだ。ここで、十年後に再会しようと。これだけ長い時間が経ったのに、彼の事は今でも鮮明に思い出せる。それほど私は彼の事が好きで、彼と離れている間もずっと、彼の事を考えていたのだ。  彼と出会ったのは、大学1年生の終わり頃だった。当時から私は人付き合いが苦手で、サークルも入らず、ほとんどいつも一人でいた。このままずっと一人で毎日を過ごすのだろう、と思っていたある日、彼と知り合った。大学に行くときに使っているバス停で、いわゆるナンパのような形で、彼の方から声をかけてきたのだ。遊びのつもりなのだろうか、と思いつつも、私は彼の姿に一目ぼれしてしまい、何度か一緒に遊びに行く関係になった。彼は優しかった。彼は人付き合いが苦手な私の悩みも聞いてくれたし、ずっと一緒にいるよとも言ってくれた。こんな私にそんな言葉をかけてくれるなんて、と私はますます彼の事が好きになったのだ。  彼の方も、私の事は真剣に考えてくれているようだった。身体の関係を持ったのも、初めて出会ってから三か月は経ってからの事だ。付き合うようになってから聞いたのだけれど、彼は私の事を、初めて私と話すよりもずっと前から知っていて、どうしても話をしたくて、勇気を振り絞って話しかけてくれたのだという。けっしてナンパなんかじゃないんだ、と彼は笑顔で言った。  そうして私たちは2年と少し、付き合った。その頃には私たちは同棲するようになっていた。私は、結婚することだって考えるようになっていたし、結婚という形でなくても、とにかくずっと一緒にいたいと思っていた。彼が傍にいる毎日は本当に幸せで、私のような人間でも、こんな幸せに暮らせるのだと、とても嬉しい気持ちだった。  それなのに。私は彼と一緒にいられなくなってしまったのだ。どうしても、離れ離れになることに、なってしまったのだ。そしてその最後の日、私は彼に言った。十年たてば私は戻って来れる。だから、十年後の今日、ここで再会しよう、と。  そしてそれが、今日なのだ。予定通り私は十年経って、ここに戻ってくることが出来た。彼は、私の事を覚えているだろうか。この約束の事を覚えているだろうか。いや、きっと覚えている。だって彼は、私の事が好きなのだ。そして私だって、彼の事が大好きなのだ。だからきっと彼は来てくれる。私たちはここで再会する。そして、私たちはまた一緒に暮らして、今度こそ離れ離れにならずに、幸せになるのだ。  そう思って私は、彼を待ちながら、幸せな気持ちになっていた。
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