「忘れ者」

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 「いっけない、携帯忘れたかも」 体験者の“ユミさん”は廃墟での肝試しを終えた帰り、中に携帯を忘れた事に気が付いた。地元では有名スポットだが、盛り上がるような事もなく、退屈しのぎに弄る携帯を、廃墟内の棚へ置いてきてしまったのだ。 「俺も行くよ」 と彼氏も着てくれる事になり、他のメンバーと別れ、二人だけで、中に戻った。 「何か全然怖くなかったね。てか、ここの噂ってどんなんだっけ?」 「ああ、確かヤンキーに酷い事された女の怨念が何たらって話」 「うわ、ありがちな上に、あやふや」 「そうそう、てか、話のオチが、怖さ一気に半減なんだけど、女は生きてるらしくて、ヤンキーの方は警察に捕まってるらしいよ」 「ハッ?じゃぁ、怖くないじゃん」 「うん、でもさ。何かヤンキー、拘置所で消えたんだって、そんで、今でも、この廃墟内をうろつき回ってるってのが、話の肝って訳」 「意味わかんない」 「まぁねぇ~、そこが女の怨念とか、この辺の土地に何か謂れがあるとか、とにかく噂は色々ある訳だよ」 「なるほどね~」 会話をしている内に、目当ての携帯を見つけたユミさんが、この後の予定を考えた時だった。 「ねぇ、あれ何?」 彼女達のいる部屋の次の場所…ドアが外された暗い空間から丸いボールのようなモノが覗いている。 「えっ?人、だ、誰?」 メンバーが戻ってきたのかもしれないと声をかけたのがいけなかった。 丸い物体にギョロリとした二つの白が現れ、初めて、それが目であり、人の頭である事を理解する。顔全体が真っ黒な坊主頭の恐らく男性、 何故か首だけを覗かせた異様な姿で、こちらを見ている。 「行こうか」 彼の声に頷き、後ずさりしながら、廊下に出た。そのまま駆けだす二人の前方の部屋から、またしても同じ顔が覗く。 「ひっ」 「走れ」 目だけはこっちを追いかけてくる頭の横を、彼に促され、通過する。 「何、あれ何?」 「いいから」 顔に風が当たる。出口だ。はやるユミさんの視界が黒い顔で一杯になる。 悲鳴を上げ、転ぶ彼女を彼が抱え、外に出た。廃墟から戻った翌日、 腹部に異変を感じた彼女は病院で、妊娠を告げられる。彼氏の子でない事を、ユミさんは察した。 廃墟内、眼前で蠢動して、口を動かした黒い顔は、不明瞭であるが 「忘れモノだ」 と言っていた。彼が行方不明になったヤンキーかはわからない。 ユミさんは、この事象から数週間後、一人の女性と会う。 その後、女性は妊娠し、彼女の腹部は治った…(終)
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