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『月とスッポン』
「僕じゃ君には釣り合わないよ」
「そんなことないわ」
「みんなもそう言ってる」
「言わせておけばいいじゃない」
「それでも、君に申し訳ないんだ」
「私はあなたのことが好きなのに、何の問題があるというの?」
「だって君は美人だ。頭も良い。運動神経だって悪くないし、堂々としていて度胸もある」
「そんなに褒められると、なんだかくすぐったい」
「それに比べて僕はどうだ。顔も体も平凡で、成績もそこそこ。運動に至っては目も当てられないくらい酷い」
「あなたの走る姿、好きだけどね」
「馬鹿にしてる?」
「全然。全力が伝わって好きよ」
「君は変わってる」
「そうかしら」
「じゃなきゃ僕を選ぶわけがない」
「あなたは魅力的よ」
「僕たちがなんて言われているか知っているかい?『月とスッポン』だよ。まるで僕たちのためにある言葉みたいだ」
「私、その言葉、よく分からないの」
「意味を知らないの?」
「意味は分かるわ。でもよく分からない」
「どうして」
「だって私、スッポンの方が好きだもの」
「何だって?」
「スッポン可愛いじゃない。それに料理にしても美味しい」
「可愛いかな」
「それに比べて月は駄目ね。勝手に出てきたと思ったら、勝手に消えるもの」
「そういうものだからね」
「それにすぐそこにありそうなのに、全然触らせてもくれない」
「それはそうだろう」
「だからね、私は月よりスッポンが好き」
「変だね」
「変かな」
「うん」
「でも嫌いじゃないでしょう」
「うーん、そうかもしれない」
「そうよ、きっと」
「そうだね」
「それよりお腹が減ったわね」
「スッポンの話をしたからかい?」
「そうかもね」
「じゃあご飯でも食べようか」
「ええ、そうしましょう」
「ありがとう」
「どうして?」
「君のそういうところが好きだ」
「変なの」
「変かな」
「ええ」
「でも嫌いじゃないだろう」
「そうね、そうかもしれない」
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