メタセコイアの林

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メタセコイアの林

韓国では“初雪の日には恋人と会う”という“お約束”があるらしい事を 『冬のソナタ』というかつて大ヒットしたドラマで知った。 韓国も地域によって天候は同じではないのだろうが、初雪をことさらにイベント化するということは、日本の北部よりは雪が少ないのだろうか。 晩秋のある日、主人公のふたりは、 罰掃除の落ち葉履きをしながら、 「初雪の日には何するの?」 「誰かと逢うんじゃないかな。」と それらしい会話をしつつもちゃんとした約束ができない(しない?)。 それは、まだ付き合っていないから。(たぶん) 初雪の 日には誰と 何するの    そんな問いかけ デートの約束? そんな話をした数日後、彼が郵便局から出て来た時、雪が降っていた。 彼は、嬉しそうに空を見上げると、 微笑んでどこかへ走って行った。 舞い降りる 初雪見上げ 走り出す       君待つ湖畔に 心高鳴る 彼女も、初雪が降るのを見てどこかへ出掛けていくのだった。 言葉にして約束した訳ではないけれど、そこはふたりにとって特別な場所。 だから、きっと待っていると。 ふたりは、初めて授業をサボって、 ふたりだけで歩いたメタセコイアの林へ向かっていたのだ。 そこは、ふたりが初めて心を開いて、お互いの持つ傷、(父がいないということ)が似ていることを知った場所だったから。 彼女は、彼にピンクのミトンを貸します。別れ際に彼が返そうとすると、 「今度会ったときに返して」と約束します。 けれど約束の日、約束の場所に彼は現れませんでした。 彼は、彼女に会えない事情を知ってしまい、約束を破ろうとしたのです。 けれど、ポケットの中のミトンに気付き、やはり行かなければと引き返し、待っている彼女の下へ早く行こうと無理をして交通事故に遭ってしまったのです。 いくら待っても来ない彼を待ちくたびれて、最終バスで家に帰る彼女。 バスは、人だかりの事故現場の横を通り過ぎていきます。 こんなに遅くなって、お母さんに叱られるわねと憂鬱な気分の彼女は、外の喧騒に気付きません。 翌朝、そんな事とは知らず彼女は、 「ずっと待ってて寒くて死にそうだったのよ!」と約束を破った彼を怒るべきか、ケンカにならないように 「ゴメン、実は昨日行かなかったの…、行けなかったの…」とウソをつくべきか考えあぐね、ため息をついていたのでした。 なんとして   ゆってやろうと 歩みつつ    思いあぐねる 溜め息の朝 教室に入った彼女を待っていたのは、 「彼は昨夜交通事故で亡くなった」という知らせでした。 彼もまた、約束の場所に行こうとしていたのでした。
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