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第一章 アトリエ
土曜日の夕方、絵画教室の最後の生徒達が引き上げて行った。
「中川君、天崎さん、お疲れ様。どう、少しは慣れてきたかな」
二人に冷たいお茶を淹れ、自身も一息つく。
教室を手伝ってくれているアルバイトの二人は、数年前までこの教室に通っていた生徒だった。
「皆さんの絵を見ながら勉強できて一石二鳥です」
天崎はデザイン事務所に勤務しながら、イラストレーターとして独立するために勉強中だ。
「僕はまだ、ちょっと……。すみません」
中川は美大時代の友人達とアトリエを開講する予定だが、コミュニケーションに課題がある。
「色んな年代の人達と話をするのは勉強になるけど、やっぱり緊張します」
「俺もそんなに人付き合いが良い方じゃないから分かるよ。でも、段々と慣れていくもんさ」
「だと良いですけど」
「大丈夫だよ。相手は敵じゃないんだから、笑っていれば何とかなる!」
中川より少し年上の天崎が笑顔を見せた。
「天崎さんって、サバゲーが趣味でしたよね……」
天崎が苦笑いした。
「——じゃあ、掃除と画材道具のチェックをして終わらせよう。あ、そうだ。二人共、良かったら帰りに柚子を持って行ってくれ。生徒さん達にも配ったんだけど、まだ沢山あるから」
「柚子ですか? 嬉しいです!」
「もしかして、庭の黄色い実ですか?」
二人は庭の柚子の木を見た。
「そう、無農薬だから皮ごと使える。柚子酒を作ったことがある生徒さんがいて、今度レクチャーしてもらおうかなって思ってるんだ」
「良いですね! 僕も作りたいです。梅酒は作ったことがあるんですけど」
中川が珍しく高揚して言った。
「そうだな、打診してみよう」
二人が手分けして掃除を始めたのを見て、自分は在庫の数をチェックして回った。
「おっと」
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