異世界転生者と始めるギルドづくり~稼げるギルドめざします~

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「チ……ハヤ、ナゲカワ……?」  珍しいイントネーション。それに、見たことのないような顔立ち。格好は、このクソ暑いのに執事みたいな燕尾服を着ているけど、似合ってはいるけどどこか全体的に異国風の雰囲気があった。 「失礼してよろしいでしょうか? サラ様」 「あっ……はい」  家の中へと案内しようとすると、チハヤ……さんは如才なく頭を下げて、ついてきた。仕事上、なんだろうけど名前に様をつけられるなんて初めてだ。なんか、すごい緊張する。  リビングに通すと、イスに座ってもらう。私は、テーブルをはさんで反対側のイスに腰かけた。  チハヤさんがテーブルの上にいくつか書類を並べて静かに準備している間、私はついつい彼の顔を凝視していた。  イケメンだ。間違いなく。異国風の雰囲気だけじゃなくて完成された完璧なまでの神の造形美がそこにある。……何を言ってるんだ、私は。あーダメ、雑誌に出てくるくらいのイケメン過ぎて思考回路がおかしくなってるかもしれんわ。  この村の人は、基本的にだいたいが私より年上だ。しかもかなり年上だ。男の人なんておじいちゃんかおじさんくらいしかいない。  くっ。おじいちゃんは知ってたんでしょ? 代理人がこんなイケメンだなんて。先に言っといてくれよ。18歳の純真な乙女には心臓に悪すぎるよ。 「? どうしましたか? サラ様」 「……あっ、いえ!」  今、目が合っちまった! そしてつい逸らしてしまった! 変な娘だと思われたらどうしよう? 「それでは、おじい様の遺産について説明していきます」 「はっ、はい! よろしくお願いします!」  く~声が上擦った! 顔上げられねぇ! 絶対、私の顔赤くなってるじゃん!  そんなこんなで、イケメンと面と向かう恥ずかしさと緊張でほとんど話は聞けていなかったけど、とにかくかなりの額がもらえるということだけは理解した。というか知ってた。 「──おじい様は亡くなられる直前に数々の貴重品を全て売却して現金化していたので、遺産は現金だけでもざっと計算して1億リディアはあります」 「……1億リディア」  ごくり。実際に額を教えてもらうと、はしたないけど喉が鳴る。髪のカット代がだいたい3000リディアぐらいなんだから……計算できない! レストランの飲食代が1500リディアくらいだから……やっぱり計算できない! 「それに、もちろん土地や家屋はそのまま受け継ぐことになります」  そうだ。この家も、土地も全部私のもの。一人で住むのには広すぎるから、小さな家に建て替えてその分、誰かに土地を貸し出してもいい。くぅ! もうけてしまう!  妄想を膨らませていた私だが。しかし、予想だにしない言葉がこの後に続いた。 「そして、酒場の隣にある2階建ての建物についてですが」 「酒場の隣……?」  そんなところに──あったわ。何に使われているかわからない。ほこり被った建物。 「あの建物はおじい様の持ち物なので、遺産の一つになります」 「マ、マジで!? ……あっ」  慌てて口をおさえる。私ったら、また欲望剥き出しに……。  でもだよ。あの建物、将来何かに使えるんじゃね? 村の誰かが新しく商売始めたりしたら、貸すことだってできるし。  うむ。この土地に建物。こりゃ、もうかるぞ! 「遺産は以上です。こちらにサインをいただければ」  チハヤさんが用紙と羽ペンを差し出してくれた。私は、ためらうことなくサラサラとペンを走らせる。 「ありがとうございます。ああ、それと、ギルドの引き継ぎについてです。これは少々込み入った話ではありますが」 「はひ……?」  ギルド? 引き継ぎ? なに、それ。 「そのまま読ませていただきます。……いや~一つ大事なことを伝え忘れておったわ。酒場の隣にだぁれも使っていない2階建ての古い建物があるじゃろ。あれ、わしのギルド。世界中がギルドバブルのときにわしも作ったんじゃが、小さな村で需要がなくての。いつの間にかだぁれも使わなくなってしまったんじゃ。すっかり忘れてての。それ、お前に譲るわ。ギルド本部に登録はされているはずじゃろうから、サポート料が滞ってけっこうな金額になっていると思うけど、わしの遺産をはたけば、まあ、大丈夫じゃ、まあ、たぶん」  たぶん、目が点になったとはこのことだ。 「はぁ? なに? どういうこと!?」 「まだ続きがございます。……そうは言ってもいきなり働いたこともないサラがギルドの運営なんて無理じゃろ。だから、優秀な執事を残しておいたからの。ほれ、お前の目の前にいる代理人じゃ。彼はの、今世界中に現れている異世界転生者じゃ。なにやら異世界転生者はギルドについての知識が豊富らしく、ギルドのことはわしらよりも彼の方が断然詳しい。彼に任せておけば万事上手くいくはずじゃろうて。それじゃ、あとはよろしくな。チハヤ・ナゲカワ」  自分で自分の名を読むと、チハヤは紙を折り畳んで立ち上がった。 「というわけです。それでは、これからよろしくお願いします。ギルドマスター、サラ・マンデリン様」  ──だから執事っぽい服を着てやがったのか、なんて言葉が浮かんでも口からは出てきやしない。ってか、異世界転生者ってなに? ギルドってなに? サポート料ってなに?  出会ったことのない言葉が頭を埋め尽くすなか、私がようやく出せた言葉は。 「ちょ……マジ?」  だけだった。  そんな私の心内を知ってか知らずか、チハヤは柔らかく微笑んだ。 「問題ありません。サラ様。私とともにギルドを運営していきましょう」
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