3 大黒屋も天下太平

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「私ばっかり、はしゃいじゃってたかな」 「別に。美津が楽しかったならいいんだよ」 「そう?」 「俺もちゃんと楽しかったから大丈夫だって」 「なら、よかった」  本気でほっとした。せっかく清太郎が取ってくれた木戸札だったのに、清太郎が楽しめていなかったら困る。私のように楽しそうに歓声を上げてはいなかったけど、清太郎は落ち着いて芝居を見るタイプだったみたいだ。  それなら、なおさら。 「うるさくしちゃってごめんね」 「気にすんな。別にうるさかったのは美津だけじゃないだろ」 「確かに」  うんうん、と思わず頷いてしまう。  白浪小僧人気で周りも、ものすごい熱気だった。 「すごかったんですね、お芝居」  感心したように弥吉が呟いている。 「本当にすごかったんだよ。本物の白浪小僧みたいで! 小判を投げるところなんてもう最高でね!」 「美津、そろそろ家の中に入りなさい。空が暗くなってきたよ」 「あ、本当だ」  おとっつぁんに言われて気付く。いつの間にか、カラスが鳴く時間になっている。 「お芝居ならいいけどね、本物の盗賊が出たらさすがに危ないじゃないか。清太郎も気をつけて帰るんだよ」 「はい」  清太郎はおとっつぁんに頭を下げる。  そして、 「じゃ、またな」 「うん、じゃあね」  名残惜しそうではあるが清太郎は私に背を向けて歩き出す。  そうだった。映画を観た後とか舞台を観た後は、一緒に行った友達と内容についてしゃべりたくなる。  清太郎が名残惜しそうなのはそれかもしれない。私ばっかり興奮していて気付かなかった。  今度は気をつけよう。うん。
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