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「私ばっかり、はしゃいじゃってたかな」
「別に。美津が楽しかったならいいんだよ」
「そう?」
「俺もちゃんと楽しかったから大丈夫だって」
「なら、よかった」
本気でほっとした。せっかく清太郎が取ってくれた木戸札だったのに、清太郎が楽しめていなかったら困る。私のように楽しそうに歓声を上げてはいなかったけど、清太郎は落ち着いて芝居を見るタイプだったみたいだ。
それなら、なおさら。
「うるさくしちゃってごめんね」
「気にすんな。別にうるさかったのは美津だけじゃないだろ」
「確かに」
うんうん、と思わず頷いてしまう。
白浪小僧人気で周りも、ものすごい熱気だった。
「すごかったんですね、お芝居」
感心したように弥吉が呟いている。
「本当にすごかったんだよ。本物の白浪小僧みたいで! 小判を投げるところなんてもう最高でね!」
「美津、そろそろ家の中に入りなさい。空が暗くなってきたよ」
「あ、本当だ」
おとっつぁんに言われて気付く。いつの間にか、カラスが鳴く時間になっている。
「お芝居ならいいけどね、本物の盗賊が出たらさすがに危ないじゃないか。清太郎も気をつけて帰るんだよ」
「はい」
清太郎はおとっつぁんに頭を下げる。
そして、
「じゃ、またな」
「うん、じゃあね」
名残惜しそうではあるが清太郎は私に背を向けて歩き出す。
そうだった。映画を観た後とか舞台を観た後は、一緒に行った友達と内容についてしゃべりたくなる。
清太郎が名残惜しそうなのはそれかもしれない。私ばっかり興奮していて気付かなかった。
今度は気をつけよう。うん。
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