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3 大黒屋も天下太平
大黒屋の店先まで帰ってくると、いつもの光景があった。
おとっつぁんが動物園の熊みたいに店の前でうろうろしている。私が帰ってこないのを心配するあまり、外に出て待っていたのだと思われる。私はその姿に駆け寄った。
「おとっつぁん! ただいまー!」
「おお、美津!」
おとっつぁんが私の顔を見てパッと笑顔になる。と言っても、他の人にはちょっとわかりにくいと思う。なにしろ、私のこの世界でのおとっつぁんはものすごい悪人顔だ。時代劇の悪徳商人の顔と言えばわかりやすいと思う。私に向かって微笑む顔は、どう見たって悪徳商人が黄金色の菓子を悪代官に渡しているときのそれだ。
けれど、私はあの笑顔が本物だということを知っている。最初はかなり誤解してしまって申し訳なかった。
「無事に帰ってきてよかった。芝居はどうだったかい?」
「すっごく楽しかったよ!」
「そうかそうか。それはよかった」
おとっつぁんは本当に嬉しそうだ。
「ご苦労だったな、弥吉」
「はい!」
「清太郎も、ありがとう」
「い、いえ」
機嫌が悪そうだった清太郎だったが、おとっつぁんに話しかけられると恐縮してしまっている。
「ごめんね、清太郎」
「なにがだよ。美津は悪くねぇだろ」
悪くないと言いながら清太郎はやっぱり不機嫌そうだ。
「お芝居、楽しくなかった?」
そういえば、お芝居のとき舞台に集中しすぎて清太郎のことをまったく気にしていなかった。それも怒っているのかもしれない。私はちょっと夢中になりすぎて周りとかまったく気にしてなかった。というか、隣に清太郎がいることすらお芝居中には忘れていた。
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