約束の場所へ

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 今にして思えば随分と芝居がかったやり取りだったが、三軒目の店で話していたということに加え、やはりあの子のセリフのせいでもあったのだろう。 「責任取ってよ」  俺はあの時、彼女に消えない傷を遺した。  今では名前さえ思い出せない、初恋の相手に。 「〇〇ちゃん、可愛いでしょ?」  庭で花火をして遊んでいる最中、スイカを取りにおいでと呼ばれて台所に行った俺に、真知子おばちゃんがニヤつきながらそう言っていた。 「人間、顔じゃないよ」  そう答えたのも憶えている。  だが、当然今では分かっている。人間顔ではないが、内面は自然と表に出る。表情に出る。それが「顔」になってゆく。  彼女には内面から出る眩しさがあった。そしておばちゃんが言う通り、彼女は可愛いかったし、アラサーと呼ばれるようになった今になっても彼女以上に可愛いと思える人に会ったことはない。と、思う。  何しろ想い出は美化されるものだ。失望を繰り返す日々に苦しむ中で。  想い出の中に住む彼女は、いつまでも十三歳の少女のままではなかった。俺と共に成長している。ひとつ年上の俺と共に。
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