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海からの照り返しを身体中に浴び、蝉が揺らす空気に包まれていた俺に、スッとその声は清涼な風を送り込んできた。
「こんにちはっ」
スキップしているようなその声で、独り海を見下ろす俺に話しかけてきたのは、成長どころか幼児退行した彼女だった。
「え?」
挨拶してきた少女に対して驚愕をそのまま声にした俺に、その子は不思議そうな顔を向けていた。慌てて挨拶を返す俺はなんと情けない大人か。
「あ、こんにちは」
返事があって安心したのか、その子は天真爛漫な笑顔を見せた。
「おじさん、ゆっちゃんのパパ知ってる?」
「ゆっちゃんって、お嬢ちゃんのこと?」
俺はしゃがみながら少女の顔を指さして聞いてみた。
「そう。ゆっちゃん」
少女も自分の鼻を指してまた満面の笑顔を浮かべる。
やはり似ている。あの子に。
「ゆっちゃんのパパのお名前は何て言うの?」
独身の俺は、子供の扱いに慣れていない。普段なら好んで会話をしようなんて思わない。そんな俺に子供との会話を続けさせたのは、ここが消えるニュータウンだからだろう。やがて覚めると知っている夢の中にいるのと同じだ。
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