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このときには完全に俺は現実の中に身を置いていた。小学校にも上がっていないような子が、独りでこんな場所に来るわけがない。一番近くにある家でも、この丘の麓まで降りなくてはならない。この子の足なら三十分以上歩かなければならないだろう。
「ママ、いるよ。前のお家があったとこ」
そう言って、ゆっちゃんは背伸びをしながら「あっち」と、ニュータウンのある丘の頂上側を指して言った。
「ママにはちゃんと言ってきたの? ここに来るって」
「うん。ママも後で来るって」
俺はそれを聞いて心底安心した。安心したと同時に、ゆっちゃんのママはあの子に違いないと確信していた。だが、それにしても。
「ゆっちゃんは、パパのことは何を知っているの? おじさん、もしかしたらゆっちゃんのパパに会ったことあるかもしれない。ここね、おじさんの従兄弟が住んでいた所なんだ」
「そうなの? じゃあ、おじさんの従兄弟がパパ?」
「それは違うな。おじさんの従兄弟はまだ結婚していないから。おじさんもね」
「ふうん。あのね、ママが子供の頃、ここの家でパパと花火をして遊んでいたんだって」
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